鉄筋コンクリート造(以下RC造)は現代日本では広く用いられている構造の一つです。用途としては商業施設や集合住宅であることが多く住宅に用いられることは多くはありません。しかし近年ではRC造の住宅も増加傾向にあり、将来的にこの流れは加速していくと考えられます。今回はRC造の基本を確認し、家づくり、家探しにおいての判断材料としていただければ幸いです。
RC造とは
RC造とは鉄筋コンクリート造と言われている通り、鉄とコンクリートを用いた構造です。この2つの材料は非常に相性が良く、組み合わせると堅固で長寿命な建物を建築することが可能になります。ではその理由とは何なのか、それは以下における鉄とコンクリートが持つそれぞれの性質にあります。
- コンクリートは圧縮力に強い反面引っ張り力に弱く、それを鉄筋が補える
- 熱膨張率が2つとも殆ど同じである
- コンクリートに生じるクリープ現象を鉄筋が防止する
- 錆びやすい素材の鉄筋をコンクリートによって保護する
これらの理由によりコンクリートと鉄筋は相性良く、RC造が普及しました。しかし箇条書きでは分かりにくい部分もあると思いますので一つ一つ解説していきます。
建物にかかる力
コンクリートは圧縮する力に強い反面、引っ張られる力に弱い建材です。その引っ張り力を補うために鉄筋と呼ばれる棒状にした鉄をコンクリート内部に入れます。鉄筋そのものは方向性に関わらず強いのですが、鉄筋は細長い棒状の素材であるため曲げる力には弱くなっています。それをコンクリートによって補強することで、変形することなく引っ張り力からコンクリートを守ることができます。
熱膨張率が一致
物体には熱膨張率というものがあり、温度変化によってどれくらい物体が膨張、または収縮するのかを表した値の事を言います。鉄筋とコンクリートにおいてはその常温下においては熱膨張率が殆ど同じ値を示します。例えば鉄筋がコンクリートより収縮する材料だったなら温度が下がると内部が空洞になりますし、逆に膨張するのならコンクリートにひび割れを起こすようになるでしょう。その点熱膨張率が近いもの同士であれば同じように膨張・収縮を行うため、温度が一定ではない外気温にさらされる建築物にも問題なく使用することができます。
クリープ現象の防止
木材やコンクリートにはクリープという現象が起こります。建築用語としては「力を加え続けると時間の経過に伴って変形が大きくなっていく現象」を意味し、AT車で起きるクリープ現象とは違います。鉄筋は建築での利用を想定した状況においてはクリープ現象は起きない材料です。そのため、クリープ現象を引き起こすコンクリートを現状の形に固定する役割も鉄筋は担っています。
鉄筋の錆止め
鉄は非常に錆びやすい素材です。鉄筋が風雨さらされてしまうと錆びてしまいますが、コンクリートはその錆から鉄筋を守る役割も持ちます。鉄筋の錆は鉄が酸化することによって発生するのですが、打設したコンクリートは強アルカリ性であるため鉄筋の酸化を防ぎます。かぶり厚さと呼ばれるコンクリートの厚みが不十分であったり、乾燥収縮や施工の不備によってコンクリートがひび割れてしまうと中の鉄筋が錆びてしまいます。鉄筋が錆びると体積が増えるためコンクリートが押し出される形で新たなひびや破損に繋がります。そのためかぶり厚が十分に取れているかは、コンクリートを打設する際特に注意するべき点の一つです。
余談ではありますが鉄とコンクリートで作られた建築物ならばSteelConcreteでSC造ではないかと思う方もいると思います。ではRCとはどういう意味か、英語で「Reinforced Concrete」と書いて日本語訳すると「補強されたコンクリート」という意味になります。つまり鉄はコンクリートの補強材という扱いとなりますが、実際は相互関係が強く決してコンクリートが主体の構造ではありません。
ラーメン構造と壁式構造
次にRC造の分類を解説していきます。RC造にはラーメン構造と壁式構造という2つの構造があります。住まいを決める際、自分に合う形式を選べるようそれぞれの特徴を把握しておきましょう。
ラーメン構造
ラーメンというのはドイツ語で「枠」を意味し柱・梁をRCにすることで建物を支える構造です。建物を支える構造を柱・梁で構成するため、自由な間取りや大きな開口を設計することが可能になります。また将来的に間取りを変更する際にも構造に気にすることなく計画する事が出来ます。さらに大規模建築にも耐えられる強度を有しており、中高層マンションなどのRC造ではラーメン構造であることが多いです。しかし柱・梁が太く、室内に張り出してくることから圧迫感を感じてしまう場合があります。
壁式構造
壁式とは柱・梁で支えるラーメンとは違い、壁とスラブで建物を支える構造になります。イメージとしてはラーメンが枠に対し、壁式は箱になります。壁式では室内に柱・梁が張り出してくることがなく、すっきりした空間を設計することが出来ます。また遮音性・気密性といった点や耐震性などに関してはラーメン式より優れており、低層の建築物においては壁式の方が主流になります。しかし、壁によって建物を支えるため間取りや開口に制限があり、将来的な間取りの変更なども難しくなってしまいます。また法令において高さ20mの制限があり、特殊な工法を用いない限りは低中層の建物で採用されます。
RCの特徴・利点
高い耐久性
RC造は頑丈そうな見た目の通り、高い耐久性を持っています。法律には耐用年数というものがあるのですが、住宅の場合「木造:22年」「鉄骨造:34年」「RC造:47年」となります。もちろんこの年数が過ぎた建物は老朽化が進んで危険だというわけでは決してありません。不動産としてみた場合に資産的価値を保ち続けられる年数として定められているだけですので、資産運用目的でない場合はこの年数を覚える必要はあまりありません。しかしこの結果を見てもRC造がどれだけ耐久性が高いかがわかると思います。
遮音性・気密性
壁式構造の場合はもちろんですが、ラーメン構造の建物も外周部の壁はコンクリートを打設して造られます。コンクリートは密度が高いため、構造体自体が優秀な遮音性能をもち、躯体自体の厚みも大きいため、木造や鉄骨造と比較した際には建物外部からは音の影響を受けにくくなります。また、隙間なく打ち込まれたコンクリートは気密性にも優れているため、換気経路外からの外気流入を防ぐことが可能です。しかしRC造自体の熱容量が木造に比べ非常に大きいため、断熱材を適切に使用しなければ室内温度を適切に保つことが難しくなります。逆に言えば適切に断熱材を用いることでRC造の気密性の高さを十全に生かすことができ、エアコンなどの冷暖房効率を高め、エネルギー消費を削減することが可能になります。
計画のしやすさ
RC造ではコンクリートを流し固めて構造を作成するため歪曲した構造体を造ることができます。木造や鉄骨造においても不可能ではありませんが、施工はRC造の方が容易です。また設計を行う際、どの程度のスパンをとれるかは非常に重要です。スパンとは建築用語で柱と柱の間隔を指し、柱・壁のない空間をどれだけ広くとれるかに関わってくる部分です。これに関しては鉄骨造が得意分野であり、10m以上のスパンを取ることができます。RCの場合壁式は5~6m程度であり、ラーメンだと6~8m程度のスパンが取れるため、鉄骨造には劣ります。しかし木造は3~4mほどであることから中程度のスパン計画が可能となります。また住宅だと鉄骨造の10mスパンは持てあますことも多く、軽量鉄骨を使用し5~6m程度のスパンを取ることが多い事からRC造でも十分なスパンであることがわかります。またラーメン式の場合は遮音性や気密性に関しては壁式に劣りますが、原則柱・梁のみで構造が完結するため耐力壁を計画する必要がなく、非常に自由な間取りを設計できます。
構造的メリットの他にも、RC造には構造体となるコンクリートをそのまま仕上げとする「打ち放し」という工法があります。デザイン性の観点から、非常に力強い印象を与えられる打ち放しは他構造にないRC造の特徴の一つです。
RC造のデメリット
主なデメリットしては以下の点が挙げられます。
- 建築費用が高くなる
- 建物全体の重量が重くなる
- 結露・カビが発生しやすい
この3つのデメリットはRC造を計画する上で決して避けられないため、以下の解説を読んでしっかりと理解しておくべき内容です。
費用の高さ
最大のデメリットとして挙げられるのは費用の高さでしょう。材料費が木造と比べて高いというのも理由の一つですが、加えて人件費が他構造より高くなります。その理由が現場でコンクリートを流し固める工法により工期が長くなるためです。例として平均的な規模である延床面積125㎡ほどの1戸建住宅を建てる場合を大まかに比較しますと「木造:2,500万円」「鉄骨造:4,000万円」「RC造:5,000万円」程度の額が必要となり木造より2倍ほどの費用が掛かることがわかります。
重量の重さ
また遮音性の高さで密度等の話をしましたが、RC造はその性質上建物全体の重量が重くなってしまいます。そのため軟弱な地盤では地盤沈下などを引き起こす可能性が高いため、地盤改良と呼ばれる建物の重量に耐えられる地盤にする工事が事前に必要となります。この地盤改良も費用の高さに拍車をかける要因になります。
結露・カビ・温熱環境
前述したとおりRC造は気密性が高く熱容量の大きい構造です。そのままだと外気温の熱が室内にこもり続け、冬季には結露・カビも発生するため劣悪な室内環境になってしまいます。そのため断熱・換気計画はRC造では特に気を付けて行う必要があります。
以上のようにRC造にもデメリットはあり、計画段階でおろそかにしてはいけない部分です。
最後に
RC造は強みが弱みにもなる構造な為、採用するには十分な検討が必要な構造だと思います。しかし耐久性やデザイン性の高さは大きなメリットであり、地震大国の日本においても安心できる建物を作れる非常に魅力的な構造です。
やはり費用面からも個人住宅で採用されることはまだまだ少なくはありますが、資金に余裕のあるかたやアパートなどを探す予定のあるかたには一つの選択肢として考えて頂けたらなと思います。