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【建築士と学ぶ】住宅性能評価とは?取得するメリットは?必要な費用や33の評価項目も紹介!【住宅初心者向け】

考える男性

「家の性能について調べてたら住宅性能評価っていうものがあるらしい」
「住宅性能評価ってそもそも何?」
「どれくらいの性能があればいいの?」

家づくりについて調べてみると住宅の性能について、様々な性能があることが分かります。しかし、それぞれがどんな役割を果しているのか。基準を満たすとどうなるのか。取得にはどんな手続きが必要なのか。そもそも必要なものなのか。一を知れば十の疑問が生まれるのが家づくりの初期段階です。

今回は家の性能を客観的に判断するための「住宅性能評価」について、基本的な目的から、審査項目、手続きや必要な金額まで、徹底的に解説していきます。ガイドラインに載っている情報に、建築士としてこれまで働いてきた経験を付け加えて、住宅性能評価について一通り理解して全体像を把握できるように構成しました。

この記事を読めば住宅性能評価について理解した上で、担当者と打ち合わせを行い、自分にとって必要なのかそうでないのかが判断できるようになるでしょう。

住宅性能評価とは品確法により定められた評価基準

住宅性能評価は住宅の品質を客観的な基準で評価するための仕組みであり、住宅の品質確保の促進などに関する法律(以下品確法)に基づき制度が導入されました。まずは簡単に住宅性能評価と品確法との関係を簡単に説明した後に、具体的に住宅性能評価とは何なのか説明していきます。

品確法とは「情報の透明性を向上」させ「住宅の品質を確保」し「消費者を保護」するための法律

3つのポイント

品確法は1999に制定され2000年に施行されました。品確法が制定された25年前は現在ほど住宅の性能について注目されておらず、粗悪な住宅が当然のように販売されていました。

現在では当然となっている通気工法が義務化されたもの2000年(平成12年)です。これはつまり、外壁内部に結露が発生し、構造体が腐朽するような住宅に何の規制もかけられていなかったことを示しています。それ以前の住宅でもそこまで結露は発生していなかったと説明する業者もいますが、それは結露さえ出来ないほどに、気密や断熱の性能が低かっただけであり、それまでの工法が優れていたわけではありません。

このような悲惨な住宅業界の品質を向上させるために品確法は施行されました。

品確法の目的は「情報の透明性を向上」させることで「住宅の品質を確保」し、「消費者を保護」することです。そのために以下の三つの項目を3本柱として掲げています。

  1. 新築住宅の瑕疵担保責任に関する特例
  2. 住宅性能表示制度
  3. 住宅専門の紛争処理体制

本記事で紹介しているのは2つ目の住宅性能表示制度ですが、他二つの項目も消費者保護の観点からはとても重要なものとなります。

住宅性能評価とは第三者機関により住宅性能を一律に評価するための基準

冒頭でも説明した通り、住宅性能評価は品確法に基づき導入された制度です。その目的は「住宅の性能に一定の基準を設け、国の登録を受けた第三者機関による検査を通じて客観的な評価を形成」することです。

ここで重要なのは、「国の定めた一律の基準」であることと、「第三者機関による検査」が必要であるという点です。

それまではメーカー独自の指標はあったものの、基準がメーカーごとに異なっているため、専門知識が無ければ他社との比較が困難でした。また、この基準は全ての構造で一律の為、別構造であっても比較の指標として機能します。

この一律の基準に加えて、設計段階と施工段階という二度にわたって第三者機関による検査が入るため、虚偽の性能表示や品質の捏造が困難となり、高品質な住宅を提供することが出来るようになります。

住宅性能評価には「設計住宅性能評価」「建設住宅性能評価」の2種類がある

先程「設計段階と施工段階という二度にわたって第三者機関による検査が入る」と説明した通り、住宅性能評価には「設計住宅性能評価」「建設住宅性能評価」の二種類が存在します。

まず、設計住宅性能評価では設計段階でその住宅がどれだけの性能になるのか、図面を基に第三者機関が評価します。その後、建設住宅性能評価として、設計通りに現場が施工されていることを確認するという流れになります。

設計住宅性能評価のみを受けることは可能ですが、8割以上の方が建設住宅性能評価まで取得しています。設計のみでは本当にその性能に達しているか確認できないので、本当に住宅の性能を確かめたいのであれば建設住宅性能評価まで取得するのが自然な流れでしょう。

一方で、建設住宅性能評価のみを受けることは出来ません。設計住宅性能評価通りに施工されているか確かめるものですので当然ですね。

第三者の評価である住宅性能評価と、それを証明する住宅性能評価書

住宅性能評価は一般消費者向けに住宅性能を第三者により調査しています。しかし、調査のみではその性能を公に証明できません。そのため、その性能を証明するために発行されるのが住宅性能評価書です。一定以上の基準を満たし、この評価書が発行された住宅は住宅ローンの優遇など、様々なメリットがあります。

住宅性能評価取得物件のメリット

メリット

では、住宅性能評価を取得するメリットとはどんなものがあるのでしょうか。代表的なものとしては下記の9点が挙げられます。

  1. 安心して住宅の売買を行える
  2. 性能を比較できるようになる
  3. 入居者を集めやすくなる
  4. 後々のトラブルを防止できる
  5. 住宅の資産価値を向上させる
  6. 一部住宅ローンで優遇される
  7. 長期優良住宅としてさらなる優遇
  8. 贈与税の非課税枠が拡大される
  9. 住宅のクオリティが上がる

少し多いですが、順に解説していきます。

安心して住宅の売買を行える

住宅性能評価を取得した物件は第三者機関による検査を受けているため、取得していない物件と比較すると性能の偽装や施工不良の可能性がはるかに低くなります。また、耐震等級3などを取得していれば、いつ起こるか分からない災害からも、命を守り、その後も住み続けられる家として安心して暮らしていけます。

性能を比較検討できるようになる

住宅性能評価の本来の目的の一つです。建築全体に対して深い知識が無くても画一化された性能評価を確認することで、客観的な評価を知ることが出来ます。そして、その評価を比較することで、自分が購入しようとしている住宅の価値が適正であるのかを確認することが出来ます。ただしこれは住宅性能評価を取得した住宅同士での比較が出来るだけなので、そもそも比較対象の住宅が取得していない場合には比較できません。建てられた後に取得することも可能ですが、追加のコストが必要となります。

後々のトラブルを処理、予防できる

住宅性能評価書が交付された住宅はトラブルが発生した際に指定住宅紛争処理機関に紛争の処理を申請できます。指定住宅紛争処理機関とは国交大臣が指定した各地域ごとの弁護士会のことです。依頼料は一件1万円と格安で、自ら弁護士に依頼するより圧倒的に安上がりです。また、この紛争処理機関の存在は、施工を担当する工務店にとって「たった1万円で訴訟を起こされる可能性がある」という緊張感になり、施工者側の意識向上にも繋がり、施工不良自体も減少し、トラブル予防にも繋がります。

入居者を集めやすくなる

賃貸住宅として住宅を建てようと考えている方にとっても住宅性能評価は有用です。客観的な性能を提示することにより、入居者への分かりやすいアピールとなり、住宅の品質を重要視しているという安心感を与えることが出来ます。その結果、入居者からの信頼感を得ることに繋がり、空室率を下げることになります。

住宅の資産価値を向上させる

住宅性能評価の評価項目には「劣化の軽減に関すること」や「維持管理・更新への配慮に関すること」という項目があります。これらの項目により、住宅の品質を維持しやすくなり、将来何らかの事情で手放すことになった際にも、より高い価格で売却できます。それ以外にも住宅の性能自体が高くなるため、災害を受けた後にも損傷が少なく、出費を抑えることが可能です。さらに、住宅性能評価を取得した物件は性能の高さをアピールしやすいため、地域内でも高い賃料で契約できるようになります。

住宅ローンで優遇される

住宅性能評価を取得した住宅は、住宅ローンの種類によっては金利面で優遇を受けることが出来ます。また、長期間固定金利であると有名な「フラット35」では耐震性、省エネ性、バリアフリー性、耐久性のいずれかで評価が一定以上であれば「フラット35S」が利用可能となり、さらに金利の引き下げが可能となります。

長期優良住宅と併せてさらなる優遇も可能

長期優良住宅と住宅性能評価は別の制度ですが、評価項目の中には重複している点が多く、特に意識していなくても結果的に両方取得できてしまうケースもあります。その場合、税金や住宅ローンでさらに多くの優遇措置を受けることが可能です。

地震保険料の割引を受けられる

住宅性能評価を取得する方の中でも耐震等級を意識する方は多くいます。そして、耐震等級は上げるとことで地震保険料を割引することが出来ます。その割引率は「等級1で10%」「等級2で30%」「等級3で50%」となっています。参考として、東京で木造戸建住宅に地震保険をかけると、年間で「建物30,000万円」「家財5,000円」程度で、合わせて約35,000円です。建物の安全性に直結する耐震等級を上げた結果としてこの金額が半額になるのであれば、コストパフォーマンス的にも悪くないと思えます。

贈与税の非課税枠が拡大される

住宅取得資金として両親や祖父母から贈与を受ける場合、基礎控除110万円に加えて、「住宅取得等資金の贈与を受けた場合の特例」を受けられます。この控除額は通常500万円までです。しかし、省エネ性能要件をZEH水準(断熱等性能等級5以上(結露の発生を防止する対策に関する基準を除く。)かつ一次エネルギー消費量等級6以上)とすることで、非課税となる金額が1,000万円まで拡大されます。贈与を受ける場合の税率は非常に大きいため、かなり資金に余裕が出来ます。

課税価格200万円以下300万円以下400万円以下600万円以下1000万円以下1500万円以下3000万円以下3000万円超
税率10%15%20%30%40%45%50%55%
控除額-10万円25万円65万円125万円175万円250万円400万円
表1:贈与税の税率(課税価格は控除適用後) 計算式:(贈与財産の合計額-基礎控除110万円)×税率-控除額

住宅のクオリティが上がる

住宅性能評価を受けた住宅とそうでない住宅を比較した際の面白い話があります。構造など、住宅性能評価の項目として挙げられている部分の瑕疵が少ないのは当然ですが、そうでない雨漏りなどの瑕疵についても減少したという報告があったのです。これは「後々のトラブルを処理、予防できる」でも解説した通り、施工者が緊張感をもって仕事をすることで、建物全体の品質が向上するということの証明でもあります。

住宅性能評価取得物件のデメリット

デメリット

住宅性能評価を取得することに多くのメリットあることはご理解いただけたでしょう。ではその反対にデメリットは無いのでしょうか。当然ですが、全くないわけではありません。しかし、メリットと比較すると極わずかなものと言えるでしょう。

デメリットとしては以下の3点が挙げられます。

  • 取得自体に費用が掛かる
  • 建物のコスト自体が上がる可能性がある
  • 意匠面に制限が発生する可能性がある

デメリットはコスト面と意匠面に分けられますが、順に解説していきましょう。

取得自体に費用が掛かる

住宅の規模や種類に加えて評価項目数によって異なります。一般的な規模の戸建て住宅では、設計住宅性能評価のみの場合、最低で税込57,200円が必要となり、建設住宅性能評価を加えると税込み11万円と地域ごとに異なる出張費が追加で必要となります。詳しくは後述する「住宅性能評価書取得に必要な費用」で解説します。

建物のコスト自体が上がる可能性がある

最終的な金額が上昇する理由は取得自体に費用が必要であることだけではありません。住宅性能評価を取得するため建物自体の質を向上させることにより、設計段階で値上げが発生や、施工自体の費用が嵩むことがあります。しかし、多少建物の価格が上がることがあったとしてもメリットの方が大きいため、個人的には住宅性能評価の取得をお勧めします。

意匠面に制限が発生する可能性がある

意匠面に制限が発生する可能性があるという点も、建物コストの上昇と同様の理由で発生します。主に構造上の理由で発生しますが、計画初期段階から構造計画をしっかりと立ててある住宅であればまず発生しません。むしろ耐震上危険な間取りを提案してくる設計者の技量不足です。しっかりと構造を理解している設計者であれば、耐震等級3も問題なく取得可能です。

住宅性能評価の評価内容は10分野34項目

チェックリストイメージ

住宅性能評価の評価には10分野33項目もの数があります。しかし、その全てが評価対象というわけで入りません。4分野10項目は取得を申請する場合、必ず審査が必要となりますが、それ以外分野と項目に関しては任意での申請となります。

まずは10分野34項目について順に確認し、その後必須の4分野10項目とはどんな項目なのか解説します。

住宅性能評価の評価項目は下記の10分野34項目となります。

  1. 構造の安定に関すること(7項目)
  2. 火災時の安全に関すること(7項目)
  3. 劣化の軽減に関すること(1項目)
  4. 維持管理・更新への配慮に関すること(4項目)
  5. 温熱環境に関すること(2項目)
  6. 空気環境に関すること(3項目)
  7. 光・視環境に関すること(2項目)
  8. 音環境に関すること(4項目)
  9. 高齢者等への配慮に関すること(2項目)
  10. 防犯に関すること(1項目)

1項目で1分野を構成する分野から、7項目で1分野という分野まで、1分野の項目数にはかなりのバラツキがあります。項目が多いということはそれだけ確認しなければならないことが多いということでもあります。そう考えると「構造の安定」と「火災の安全」に関する分野で項目が多いのは納得できます。

それでは順番に内容を確認していきましょう。

構造の安定に関すること

被災家屋
  • 1-1 耐震等級(構造躯体の倒壊等防止)
  • 1-2 耐震等級(構造躯体の損傷防止)
  • 1-3 その他(地震に対する構造躯体の倒壊等防止及び損傷防止)
  • 1-4 耐風等級(構造躯体の倒壊等防止及び損傷防止)
  • 1-5 耐積雪等級(構造躯体の倒壊等防止及び損傷防止)
  • 1-6 地盤又は杭の許容支持力等及びその設定方法
  • 1-7 基礎の構造方法及び形式等

有名な耐震等級はこの「構造の安定に関すること」に含まれます。耐震等級が2つありますが、どちらも同じ基準で等級化されています。耐震等級は建築基準法に定められている最低限度の数値を耐震等級1として、そこから1.25倍で耐震等級2、1.5倍で耐震等級3となります。ただし、建物の構造によって、建築基準法に定められる最低限度の耐震性は異なるため、同じ等級であれば全て同じ耐震性となるわけではありません。

構造の安定に関することは全ての項目が戸建住宅、集合住宅を問わず評価対象となっています。

火災時の安全に関すること

火災イメージ
  • 2-1 感知警報装置設置等級(自住戸火災時)
  • 2-2 感知警報装置設置等級(他住戸等火災時)
  • 2-3 避難安全対策(他住戸等火災時・共用廊下)
  • 2-4 脱出対策(火災時)
  • 2-5 耐火等級(延焼のおそれのある部分(開口部))
  • 2-6 耐火等級(延焼のおそれのある部分(開口部以外))
  • 2-7 耐火等級(界壁及び界床)

火災が発生した際の避難のしやすさと延焼のしにくさを表しています。避難のしやすさとして火災報知器の設置状況や、避難経路の安全対策が評価され、延焼防止性能として耐火等級が定められています。

項目により一定以上の規模の戸建住宅や集合住宅にのみ適応されるものがあります。

劣化の軽減に関すること

中古住宅 イメージ写真
  • 3-1 劣化対策等級(構造躯体等)

劣化の軽減に関することは評価項目としては劣化対策等級の一つのみですが、この一つの項目に多くの評価基準が含まれています。

木造住宅では木材の腐朽防止、シロアリ対策、通気がされる構造となっているか、材料とした木材自体の耐久性などを評価します。

鉄骨造住宅では鋼材の錆対策など、RC造住宅では鉄筋の錆対策、コンクリートの厚みや強度、コンクリートを保護する外装材などを評価します。

そして、いずれの構造も、建築基準法に定められた最低限度の基準を等級1として、50~60年大規模な補修工事が必要ないものを等級2、75~90年大規模な補修が必要ないものを等級3としています。

ただし、この期間は何のメンテナンスも行わなくても問題ないというわけではなく、通常の自然環境下において、日常の清掃や点検、最低限の補修は行われるという前提での年数となっています。

建物の寿命に密接に関係する分野であるため、戸建住宅、集合住宅を問わず評価対象となっています。

維持管理・更新への配慮に関すること

高所掃除道具
  • 4-1 維持管理対策等級(専用配管)
  • 4-2 維持管理対策等級(共用配管)
  • 4-3 更新対策(共用排水管)
  • 4-4 更新対策(住戸専用部)

劣化の軽減に関することと似ていますが、あちらが躯体の耐久性に関する評価であるのに対して、維持管理・更新への配慮に関することは設備のメンテナンス性に関する評価であると考えると違いが分かりやすいでしょうか。

配管メンテナンスの行いやすさや、間取りと設備の更新にどれだけ対応できるかが評価対象となります。

共用部の等級や対策は集合住宅の場合のみ必要となります。

温熱環境に関すること

寒い部屋イメージ
  • 5-1 断熱等性能等級
  • 5-2 一次エネルギー消費量等級

耐震等級と並んで有名な等級である「断熱等性能等級」はこの「温熱環境に関すること」の項目の一つです。断熱等性能等級とは建物の外皮(外気等に接する天井、壁、床及び 開口部などの部分)の断熱性能を評価したものです。日本は地域値より寒暖差が激しいため地域により基準は異なります。一例として東京が含まれている「6地域」を例として具体的な評価基準を以下に示します。

等級1234567
UA値
W/(㎡・K)
-1.671.540.870.600.460.26
ηAC値--3.82.82.82.82.8
表2:6地域の断熱等性能等級比較

UA値とは外皮平均熱貫流率のことで、建物内外の熱の出入りがどれだけあるのかを示しています。もう一つのηAC値は 太陽の日射がどれだけ建物に入るのかを示しており、両者ともに数値が小さいほど性能として優れています。

どれだけの性能があれば十分かは暮らす人や地域によっても異なりますが、一つ指標を挙げるとすれば、等級5が一つの基準となるでしょう。近年のカーボンニュートラル、脱炭素社会の実現のために求められているZEH水準の断熱性能が等級5となっているためです。

断熱等性能等級は一次エネルギー消費量等級と併せて、今後さらに重要となる性能と言えるでしょう。

空気環境に関すること

換気扇カバーの内部
  • 6-1 ホルムアルデヒド対策(内装及び天井裏等)
  • 6-2 換気対策
  • 6-3 室内空気中の化学物質の濃度等

住宅内の空気を清浄に保つための指標です。室内空気には人間の活動により発生するほこり、水蒸気、二酸化炭素はもちろん、建材に含まれる化学物質が揮発して溜まっていきます。これらの化学物質は人間の健康に影響があると指摘されるものも含まれています。そのため、その発生量を抑え、適切に換気することで、室内の汚染濃度を低下させ、人が健康に過ごせる空気環境を確保します。

光・視環境に関すること

高所窓からの採光
  • 7-1 単純開口率
  • 7-2 方位別開口比

作業のために十分な明るさを確保することは、視覚への負担という面でも、作業効率の面でも重要です。そのため、建物内にどれだけの光を取り入れられるかを評価する指標として作られたのが「光・視環境に関すること」です。単純に床面積に対してどれだけの開口を設けてあるのかと、その開口はどの方角に設けられているのかという点から評価を行います。

音環境に関すること

  • 8-1 重量床衝撃音対策
  • 8-2 軽量床衝撃音対策
  • 8-3 透過損失等級(界壁)
  • 8-4 透過損失等級(外壁開口部)

音環境に関することの分野は透過損失等級(外壁開口部)以外は集合住宅でのみ評価する項目となっており、集合住宅で音の問題がどれだけ重要なのか実感させられます。また、戸建住宅でも評価を行う透過損失等級(外壁開口部)も日常生活においては重要な要素であり、外部の騒音を気にすることなく生活できることは、日常のストレスを大きく軽減させます。

高齢者等への配慮に関すること

バリアフリーイメージ
  • 9-1 高齢者等配慮対策等級(専用部分)
  • 9-2 高齢者等配慮対策等級(共用部分)

分野の名称としては「高齢者等への配慮に関すること」となっていますが、実質的にはどれだけバリアフリー化されているのかという指標です。専用部分と共用部分はどちらも等級1~5までの5段階で評価されますが、評価項目は多岐にわたり、評価基準も複雑です。後から取得を目指すと、設計を変更する必要がある項目もあるため、取得を目指す場合は初期段階から設計者に意向を伝えておくことが重要です。

防犯に関すること

防犯イメージ
  • 10-1 開口部の侵入防止対策

防犯に関することは項目としては1つのみですが、大まかに分けて三つの侵入経路を想定して、それぞれに対策が出来ているかという視点で評価を行っています。

三つの侵入経路とは「a 住戸の出入口」「b 地面から開口部の下端までの高さが2m以下、または、バルコニー等から開口部の下端までの高さが2m以下であって、かつ、バルコニー等から当該開口部までの水平距離が 0.9m以下であるもの(aに該当するものを除く)」「c a及びbに掲げるもの以外のもの」の三種類です。

対策としては防犯対策部品としてCPマークの添付された商品を使用すれば大丈夫です。

必須4分野とは

選択 イメージ

ここまで全ての分野と項目を紹介してきましたが、その全てが必ず評価される訳ではありません。これから紹介する10項目のみが評価必須必須の項目であり、それ以外は任意の評価になります。

  • 1-1 耐震等級(構造躯体の倒壊等防止)
  • 1-3 その他(地震に対する構造躯体の倒壊等防止及び損傷防止)
  • 1-6 地盤又は杭の許容支持力等及びその設定方法
  • 1-7 基礎の構造方法及び形式等
  • 3-1 劣化対策等級(構造躯体等)
  • 4-1 維持管理対策等級(専用配管)
  • 4-2 維持管理対策等級(共用配管)
  • 4-3 更新対策(共用排水管)
  • 5-1 断熱等性能等級
  • 5-2 一次エネルギー消費量等級

一覧としてみると、住宅を長く使うための項目と、環境負荷を低減させる項目が必須項目となっていることがよく分かります。私は、これらの項目が必須となっているのは、これからの時代には住宅の長寿命化と省エネ化が求められていることの証明でもあると感じます。

住宅性能評価書取得までの7つのステップ

住宅性能評価書は次の7段階を経て取得することになります。どれも重要なことですが、施主が特に重要視しなければならないのは「住宅性能評価機関との事前相談」と「設計住宅性能評価を申請する」というの二つの段階です。

その二つのやり取りで、建てる住宅がどれだけの性能になるかは決定されます。建設住宅性能評価の検査時に立ち合いが必要となりますが、手続きや検査、是正などは委託した業者の仕事になるため、施主として出来ることははほとんどありません。

そのため、最初の性能を決定するまでの段階でしっかりと集中して打ち合わせをすることが重要です。

住宅性能評価機関との事前相談

設計者や担当営業と打ち合わせを重ねて、設計がある程度進んだ段階で、図面を持ち込んで一度住宅性能評価機関との事前相談を行います。実際の打ち合わせ自体は設計者が行いますが、確認してほしいことがあれば、しっかりと伝えておきましょう。ここまでに、どれだけの性能を目指すのかは、はっきりさせておく必要があります。

事前相談は申請してからの是正点を減らすことと、アドバイスを貰うことが主な目的です。設計者もプロではありますが、住宅性能評価をを専門としているわけではありません。設計者が気が付かなった見落としもあります。その見落としの指摘をもらうと同時に、法律上の解釈の確認など、実際に申請する前までに不安なことは全て確認してもらうようにしましょう。

設計住宅性能評価を申請する

事前相談が終わり、図面の修正や申請書の作成を終えたら、実際に申請を行います。事前相談段階で、住宅性能評価を取得するために、ある程度の修正を行うため、ここから先では基本的に大きな変更は行いません。逆に言うと、変更する場合は別途手続きが必要となる場合や、目標変更に合わせた設計変更を行わなければならない場合もあります。

第三者機関が設計の評価を行う

第三者機関が提出された図面や書類を確認して審査を行います。図面を確認して質疑や指摘があれば設計者へと連絡が届きます。数値の誤りや表記ミスなどの単純な修正で収まれば設計者が勝手に進めてくれますが、万が一計算ミスや見落としなどにより、目的としていた基準を満たせなくなった場合は営業担当者を通じて連絡が届くでしょう。その際は速やかに設計者と対応策をと打ち合わせしましょう。

設計住宅性能評価書を発行する

質疑回答や是正が終了すれば第三者機関が手続きを進めてくれます。最後に支払いを完了させれば、住宅性能評価書が発行され、設計段階での性能が証明されます。

申請から発行までは2週間程度を見込んでおきましょう。

万が一ここから先に設計の変更が必要となった場合は速やかに第三者機関に連絡し、今後の対応の相談と変更申請を行う必要があります。

建設住宅性能評価を申請する

検察住宅性能評価の申請の手続きは基本的に設計住宅性能評価と同様ですが、申請期間に注意する必要があります。最初の検査となる「基礎の配筋工事」の「2週間前」までに申請を完了させる必要があります。申請が遅れるとその分検査が遅くなり、工期自体が伸びてしまう可能性があります。

第三者機関が実際の建物を検査する

申請が完了後、建設中の各段階で設計通りに施工が行われているか検査員による確認が行われます。検査には申請者の立ち合いが必要となるため、スケジュールの調整を行う必要があります。

設計住宅性能評価書と実際の現場に相違がある場合には2種類の対処法があります。一つ目は是正工事を行う。二つ目は設計住宅性能評価書の変更申請です。つまり、現場か図面のどちらかを修正して整合させる必要があります。

建設住宅性能評価書を発行する

全ての検査が終了し、設計住宅性能評価書との整合が確認した後に、料金を支払うことで建設住宅性能評価書が交付され、建設段階での性能も証明されます。

住宅性能評価書取得に必要な費用

日本ERIの2024/04/01時点での料金表を使用して解説します。

料金についてより詳細に確認したい方はリンクから料金表をご参照ください。

必要な料金は建物の種類、構造、規模によって異なる

住宅性能評価の取得に必要な料金表は下記の5つに分類されます。

  • 新築戸建住宅
  • 新築新築戸建住宅(認証型式住宅部分等を含む)
  • 新築共同住宅等(延べ面積 1,500 ㎡以内の鉄骨造又は木造である建築物(混構造は除く。))
  • 新築共同住宅等
  • 新築共同住宅等(認証型式住宅部分等を含む共同住宅等)

認証型式住宅という普段聞きなれない単語がありますが、これはハウスメーカーの独自工法だと考えていただければ大丈夫です。

この中で利用する方が最も多いであろう「新築戸建住宅」について解説をしていきます。

新築戸建住宅の場合は最低16万円から

新築戸建住宅の料金表は次の通りです。表3に設計住宅性能評価の金額を、表4に建設住宅性能評価の金額を記載しています。

階数基本料金選択料金
階数が3以下52,000円(税込57,200円)1,000円(税込1,100円)
階数が4以上62,000円(税込68,200円)1,000円(税込1,100円)
表3:設計住宅性能評価料金表

一般的な住宅で回数が4階以上になることは極めてまれであるため、基本的には階数3以下の料金が必要ななる料金となるでしょう。基本料金とは必須分野について審査してもらうために最低限必要となる金額となります。

ただし、耐震等級の検証に構造計算を用いる場合は基本料金へ43,000円(税込47,300円)が加算されます。また、長期使用構造等確認を希望する場合は5,000円(税込5,500円)が加算されます。逆に減額の措置としてはERIが指定するソフトを用いて申請書を作成した場合は2,000円(税込2,200円)が減額されますが、このソフトウェアを使用するかどうかは各業者によるため、減額のあてとするのは難しいでしょう。

そして、必須項目以外に審査してもらいたい分野を一つ増やす度に選択料金の金額が追加で必要となります。また、選択料金は5,000円(税込5,500)が上限となるため、合計10分野の内、9分野を審査するために必要な金額と、10分野審査するために必要な金額は同額となります。

階数基本料金選択料金
階数が3以下100,000円(税込 110,000円)1,000円(税込1,100円)
階数が4以上110,000円(税込 121,000円)1,000円(税込1,100円)
表4:建設住宅性能評価料金表

建設住宅性能評価も基本的な考え方は設計住宅性能評価と同様ですが、増額要因となっていた「耐震等級の検証に構造計算を用いる場合」と「長期使用構造等確認を希望する場合」による増額は建設住宅性能評価では必要ありません。また、「ERIが指定するソフトを用いて申請書を作成した場合」の減額も1,000円(税込1,100円)となっています。

実際に必要となる金額は、設計住宅性能評価と建設住宅性能評価、それぞれの基本料金と選択料金を合計した金額に、下記の出張費を加算することで求められます。

地域区分日当交通費宿泊費備考
地域:A---拠点等から概ね 15km までに含まれる区域
地域:B-2,000円(税込2,200円)-拠点等から概ね 15~30km に含まれる区域
地域:C-3,000円(税込3,300円)-拠点等から概ね 30~50km に含まれる区域
地域:D5,000円(税込5,500円)4,000円(税込4,400円) -拠点等から概ね 50~100km に含まれる区域
地域:E10,000円(税込11,000円)実費10,000円(税込11,000円)
※1名につき1夜あたり
拠点等から概ね 100km 以遠の区域及び島嶼部
表5:建設住宅性能評価に係る出張費(日当、交通費、宿泊費の合計を出張費とする)(拠点等とは本社、支店又は担当する業務拠点を指す)

参考:階数が3以下の新築戸建住宅で住宅性能評価を取得するための最低金額と最高金額シミュレーション(出張費抜き)
最低金額(税込):設計評価(57,200-2,200)円+建設評価(110,000-1,100)円=163,900円+出張費
最高金額(税込):設計評価(57,200+47,300+5,500+5,500)円+建設評価(110,000+5,500)円=231,000円+出張費

住宅性能評価書取得時の注意点

ここまでで住宅性能評価の概要からメリット、取得に必要な手順や金額など、一通り解説してきました。しかし、デメリットとは別に気を付けておいた方が良いことがあります。どれも当然のことですが、メリットにばかり目が行って気が付かないことや、忘れてしまうこともあるので、いくつか紹介しておきます。

住宅性能評価を過信しすぎない

この記事をここまで読んで下さった方は住宅性能評価の重要性を理解していただけたでしょう。しかし、その性能に囚われてしまうあまり、自分にとって本当に大切なことを忘れてしまう方もいます。数値では測れない間取りとしての使いやすさや、自分たち家族がその家で叶えたかった暮らし方を忘れないようにして下さい。

また、各項目について最高等級を獲得すれば絶対に安心というわけでもありません。例として耐震等級を挙げると、2016年に発生した熊本地震では、耐震等級3の住宅は繰り返し発生する震度7の地震に対しても十分な耐震性を持つことが証明されました。しかし、これまで経験したことのない大地震に襲われるかもしれません。地震には耐えられても津波に飲み込まれるかもしれません。十分な耐震性があるから大丈夫と安心しきるのではなく、十分な耐震性を確保した上で、日頃から防災意識を高く持ち、避難場所の把握や、そこまでの避難経路の確認、家族との連絡方法の確保をできるようにしておきましょう。

全ての評価を上げることは難しいと理解しておく

住宅性能評価の等級は当然高い方が住宅としての性能が優秀であることを示しています。しかし、全ての項目の評価で最高等級を獲得することは困難であることを理解しておいてください。

評価項目を順にみていけばご理解いただけるでしょうが、矛盾を孕んでいる項目があるからです。例としては「光・視環境に関すること」の中の「単純開口率」と「構造の安定に関すること」の中の「耐震等級」の関係が分かりやすいでしょうか。単純開口率は大きければその分光を建物の中に取り込むことが出来ますが、その分壁が少なくなり、耐震性能は低下する恐れがあります。ある程度までは両立させることは出来ますが、一定のラインを超えると、そこから先はどちらかの性能が犠牲になります。

そのため、住宅性能評価の数値を比較するときには、優先順位をしっかりと決めておくことが重要です。

トラブルを完全に防ぐことは出来ない

住宅性能評価を取得するメリットとして、トラブルが予防できると説明しましたが、全てのトラブルが完全に予防できるわけではありません。建物は人間が現場で造るものです。何らかのミスを完全になくすことは現実的に不可能です。自分が高いお金を払って買った住宅でトラブルが起きて怒りが湧くことは理解できます。しかし、その感情を工務店にむやみにぶつけるのではなく、焦らずに感情を整理して、建設的に解説策を話し合うようにしましょう。

最後に

結論

本記事では住宅性能評価についての基礎的な知識を一通り紹介してきました。ただし、今回紹介したのはあくまで基礎知識です。各審査項目についてはしっかりとガイドラインを確認し、委託する業者と相談しながらどの程度の等級を目指すのかを決定してください。

また、今回紹介したのは新築住宅における住宅性能評価についてです。煩雑になるため説明を省きましたが、中古住宅にも住宅性能評価は存在しています。中古住宅には今回紹介した内容とは異なる審査項目や独自の料金設定がされています。ただし、中古住宅の住宅性能評価をする際にも今回紹介した知識は前提の知識となります。

中古住宅についての住宅性能評価も今後解説していくので、今回の内容をしっかりと理解して、次の記事を待っていてください。

  • この記事を書いた人

櫛花樹已

愛知県在住で普段は建築設計事務所で働いています。 何かしたいと常に思っているくせに何かするのは面倒くさいという捻くれ者。そんな状況を脱却するために「とりあえずやってみます」の精神で色々やっていきます。

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