建築基礎知識 木造 構造

【建築士と学ぶ】在来軸組工法の歴史と特徴、売り文句の嘘と真実【住宅初心者向け】

2024年11月10日

考える男性

「木造で家を建てようと思ってるけど、いろんな工法があってよくわからない」
「いろんな意見があるけど結局何が違うの?」
「在来軸組工法が多いらしいけど、どんな工法なの?」

地震大国・日本では、安全で快適な住まいが求められます。しかし、多くの住宅が在来軸組工法で建てられていることは知っていても、その本質を理解している方は少ないのではないでしょうか。

在来軸組工法には、多くの課題が存在しており、誕生から100年かけてようやく良質な住宅を提供できる体制が整ってきました。

今回の記事では建築士である私が、これまでの歴史と問題点を明らかにし、他構造との違いや誤った売り文句について解説します。この記事を読むことで、家づくりで後悔しないための知識が深まり、業者選びの目利き力も向上させることが出来るでしょう。

在来軸組工法の成り立ちと歴史

吹き抜けの躯体

在来軸組工法とは文字のイメージとは裏腹に比較的新しい工法になります。実際に日本国内で長い時間を掛けて発展してきた工法は今では伝統工法と呼ばれるようになり、実際に施工される事例もごく少数となりました。では一体どのような流れを経て伝統工法は在来軸組工法へと姿を変えたのでしょうか。在来軸組工法を住宅事情の代表として扱い、住宅全般の歴史としてまとめます。

伝統工法から在来軸組工法への移り替わる切っ掛け

明示 イメージ

伝統工法から在来軸組工法への変化が始まったのは明治以降であると考えられます。切っ掛けは関東大震災によって多くの建物が不動沈下の被害を受けたことです。そして、その被害を目の当たりにした、当時の西洋建築を学んだ建築学者たちによって「布基礎による建物下部構造の一体化」「基礎と上部構造の緊結」「柱太さの最低基準の厳格化」「筋交いの導入義務化」が提案されました。そして建築基準法の前身である市街地建築物法は関東大震災翌年の大正13年に改正され、「柱太さの最低基準の厳格化」「筋交いの導入義務化」は法律に明記されることになりました。

伝統工法は地震に対して変形により耐える「柔構造」でしたが、これらの改正内容は建物を頑丈にして地震に耐える「剛構造」を目指す内容です。そしてこの改正以降も震災とその被害分析による法改正が繰り返され、現代の在来軸組工法へと近づいていきます。

戦後から高度経済成長期の住宅需要の高まり

右肩上がりのグラフ

しかし、在来軸組工法がここまで急速に普及した最も大きな要因は、法律の改正と戦後の住宅需要の高まりが重なったことでしょう。

戦後の復興真っ只中の日本では戦争で焼失した既存住宅の代わりに大量の住宅を供給する必要に迫られていました。その数は420万戸といわれています。2023年の新設住宅着工戸数が約82万戸であることを考えるとその需要の大きさがよくわかるでしょう。

住宅業者はこれまでには無い勢いで、新たな基準に合わせた住宅を建てなくてはいけなくなりました。法律や審査基準以外の面でも在来軸組工法の普及を後押しする要因があります。それは伝統工法の生産効率の悪さです。伝統工法は大断面の部材や熟練の職人が必要となり、大量生産には向いていませんでした。しかし、在来軸組工法は金物を使用することで、その弱点を克服できたのです。

そして、この戦後住宅バブルで住宅業界は大いに発展することになりました。市場の拡大に合わせて事業者数も就業者数も伸びていき、以前の家づくりを知る人間の割合は減っていきました。そしてこの流れは高度経済成長期まで続くことになります。高度経済成長期末期には2×4工法が日本で一般工法化されましたが、この頃には完全に日本の住宅は在来軸組工法が当たり前となっていました。住宅需要に目を付けてハウスメーカーが台頭してきたのもこの高度成長期です。

粗製乱造。低品質な住宅が量産され続ける日々

量産される住宅のイメージ

こうして日本では在来軸組工法が一般化しました。しかし、長い間その品質は劣悪な状況が続いていました。「低気密かつ断熱性の低い外壁」「結露するサッシ」「不十分な耐震性能」「腐朽と虫害により脆くなる躯体」「ホルムアルデヒドやアスベストなどの健康被害」

これらの問題には大きく分けて2種類の原因があります。まず一つ目は「これまで使用してこなかった素材を使用することに対する知識不足」そして二つ目が、「中途半端に伝統工法の考え方を踏襲したことによる理論の混在」そして両者に共通する、「これまでこれでやってきたから、変える必要はないという作り手の意識の低さ」が長年の粗製乱造に繋がっていたと私は考えています。

法による規制などにより、細かな改善はされてきましたが、この「低品質な住宅でも良しとする風潮」は平成後期まで続いていたように感じます。実際に外壁を結露から守るために重要な通気工法も義務化されたのは平成12年と、まだ25年も経っていません。しかし、近年ではようやくこの流れが変わってきました。

震災による住宅性能に対する関心の高まり

災害後仮設住宅

住宅品質の向上につながる要因はいくつかありますが、最初の一つは東日本大震災であると私は考えています。直接的な地震や津波による被害は現在でもテレビの振り返り番組などで見かけることはありますが、日本人の住宅に関する意識を変えたのは、原発事故を原因とする電力不足と電気料金の値上げです。震災をきっかけに住宅の省エネ化がそれまでよりも強く意識されるようになったのです。

それを裏付けるように住宅性能のコストパフォーマンスを追求している一条工務店の売上は、2011年の2,500億円弱から、2016年には4,000億円弱と5年間で約1.5倍という驚異の伸びを見せています。また、同時期にアルミサッシ率と高断熱サッシ化率が逆転し、そこから急激にアルミサッシの使用率が減少していることも住宅性能に対する意識の高まりを証明しています。

そして、その変化を後押しするように2015年に「2020年までに新築の建物の省エネルギー基準適合を義務化する」ことが閣議決定されました。この頃から高気密高断熱住宅という言葉が広まっていきました。そして、それに付随して、住宅性能全般への意識が高まったのです。

実はここ数年にも似たような現象が起こっています。それは、新築住宅に書斎を設ける事例の急増です。これはコロナ禍によりリモートワークが一般に大きく普及したことによる生活の変化を受けた住宅需要の変化です。コロナ禍は一旦終息し、以前と同様の働き方ができるようになり、書斎の需要はある程度の落ち着きを見せました。しかし、住宅に書斎を設けるという選択肢自体が既に一般に定着したことにより、以前より明らかに書斎を設ける住宅は増えています。このように住宅は社会の変化に追従し変化していくのです。

インターネットによる正しい住宅情報の拡散

また、コロナ禍は書斎などの間取りだけでなく、住宅性能向上にも間接的に関わっています。それは各分野で著名な方々によるYouTube等の動画配信による情報の拡散です。コロナ禍は以前から動画を通して情報発信をする方が居ましたが、専門家と言えるほどの方がエンドユーザー向けに直接情報を発信することはそれまでなかったと思います。この情報発信は、コロナ禍で在宅時間が延びたことにより、住宅についての情報を集め始めた方々に届き、施主の知識向上に繋がりました。それにより、各工務店やハウスメーカーもその知識レベルに合わせた、高品質な家づくりが求められるようになったのです。

ただし、こういった高品質な家づくりに対応できて以内工務店もまだまだ多く存在しているのが現状です。そのため、施主自身で情報を集めていくことは家づくりにおいて未だに重要な行動となっています。

2025年建築基準法改正による四号特例の縮小

国会内観

2025年は建築業界にとってターニングポイントになる年だと言われています。主な改正点としては以下になります。

  • 四号特例の縮小
  • 木造建築物の構造計算基準の変更
  • 大規模木造建築物の防火規定変更
  • 中層木造建築物の耐火性能基準合理化
  • 既存不適格建築物に対する現行基準の一部免除

この5つの内、一般の家づくりにとって最も重要なのは「四号特例の縮小」です。

四号特例とは、住宅のような小規模木造建築物は確認申請時の審査内容が一部免除となる内容です。これだけでは理解が難しいので、順に説明します。

確認申請とは建築基準法第6条に定められている、建物を建てるときに法律に適合しているのか、行政に審査、確認してもらう制度です。そして建物の規模や用途によって建物は一号から四号までの4種類に分けられ、その区分を建築基準法の条文に合わせて「一号建築物」「二号建築物」「三号建築物」「四号建築物」と呼んでいます。

第六条(建築物の建築等に関する申請及び確認)
建築主は、第一号から第三号までに掲げる建築物を建築しようとする場合(増築しようとする場合においては、建築物が増築後において第一号から第三号までに掲げる規模のものとなる場合を含む。)、これらの建築物の大規模の修繕若しくは大規模の模様替をしようとする場合又は第四号に掲げる建築物を建築しようとする場合においては、当該工事に着手する前に、その計画が建築基準関係規定(この法律並びにこれに基づく命令及び条例の規定(以下「建築基準法令の規定」という。)その他建築物の敷地、構造又は建築設備に関する法律並びにこれに基づく命令及び条例の規定で政令で定めるものをいう。以下同じ。)に適合するものであることについて、確認の申請書を提出して建築主事又は建築副主事(以下「建築主事等」という。)の確認(建築副主事の確認にあつては、大規模建築物以外の建築物に係るものに限る。以下この項において同じ。)を受け、確認済証の交付を受けなければならない。当該確認を受けた建築物の計画の変更(国土交通省令で定める軽微な変更を除く。)をして、第一号から第三号までに掲げる建築物を建築しようとする場合(増築しようとする場合においては、建築物が増築後において第一号から第三号までに掲げる規模のものとなる場合を含む。)、これらの建築物の大規模の修繕若しくは大規模の模様替をしようとする場合又は第四号に掲げる建築物を建築しようとする場合も、同様とする。


一 別表第一(い)欄に掲げる用途に供する特殊建築物で、その用途に供する部分の床面積の合計が二百平方メートルを超えるもの


二 木造の建築物で三以上の階数を有し、又は延べ面積が五百平方メートル、高さが十三メートル若しくは軒の高さが九メートルを超えるもの


三 木造以外の建築物で二以上の階数を有し、又は延べ面積が二百平方メートルを超えるもの


四 前三号に掲げる建築物を除くほか、都市計画区域若しくは準都市計画区域(いずれも都道府県知事が都道府県都市計画審議会の意見を聴いて指定する区域を除く。)若しくは景観法(平成十六年法律第百十号)第七十四条第一項の準景観地区(市町村長が指定する区域を除く。)内又は都道府県知事が関係市町村の意見を聴いてその区域の全部若しくは一部について指定する区域内における建築物

e-eov法令検索
https://laws.e-gov.go.jp/law/325AC0000000201#Mp-Ch_1-At_6

基本的に、2階建てまでの木造建築物はこれまで4号建築物に分類されていました。この四号建築物は年間着工件数が多いため、審査する行政側も全て確認していては時間が足りず、一部の審査内容を免除していました。これが四号特例と呼ばれるものです。

この特例は、行政による審査が行われないだけで、建築士が責任をもって法適合させるという性善説に基づいています。しかし、実態としては審査されないことを利用して、法に適合していない悪質な住宅が建てられていたという実情があります。

2025年の法改正ではこの四号特例の範囲を縮小し、2階建ての木造建築物でも他建築物と同様の審査を行うように変更となりました。これにより住宅の品質が最低限担保されるようになると予想されています。

これまでの在来軸組工法とこれからの在来軸組工法

将来へ

このように在来軸組工法は100年かけてようやく良質な住宅を安定して供給できる状態になったと言えます。もちろんこれまでも在来軸組工法で建てられた良質な住宅はたくさんありました。しかし、それ以上にプロから見ると杜撰な設計と施工で建てられた住宅が多いというのが素直な感想でした。

こういった法律の基準に満たない住宅が少なくとも設計の面では2025年以降は大幅に減少していくでしょう。そして、それに伴い住宅業界全体の意識が高まれば、自然と施工精度自体も上がっていくのではないかと予想します。

在来軸組工法の特徴

吹き抜けの躯体

前座となる歴史の話が長くなってしまいましたが、本題である在来軸組工法の特徴について解説を始めていきます。

まず在来軸組工法の特徴について簡単に把握しておきましょう。

在来軸組工法のの持つ特徴としては下記の3つが挙げられます

  • 施工可能な業者が多い
  • 業者により品質にバラツキがある
  • 増改築に対応できる業者が多い

順に解説していきます。

施工可能な業者が多い

工務店 イメージ

これは先述した在来軸組工法の歴史を読んで頂いた今ならよくわかると思いますが、日本中どこでも在来軸組工法で家を建てることが出来ます。田舎の小規模な工務店であっても問題なく対応できるでしょう。在来軸組工法で家を建てているのは小規模な工務店に限りません。住宅性能のコストパフォーマンスに拘り、「家は性能」というスローガンを掲げている一条工務店も在来軸組工法をベースとして家を建てています。家を建てるならば真っ先に挙がる選択肢となります。

業者により品質にバラツキがある

粗悪な住宅と良質な住宅

前述のとおり国内どこでも施工可能な業者を見つけることが出来ることは明確な利点です。しかし、それ故に施工業者の能力には大きなバラツキがあります。中には法律で定められている最低限の基準も守らずに家を建てている業者も存在しており、安易に近場の工務店が安かったからという理由で依頼すると少し痛い目を見るだけでは済まず、最悪の場合、災害時に生死を左右する結果にもなりかねません。

そのため、しっかり工務店の良し悪しを見定める必要があります。

増改築がしやすい

増築イメージイラスト

戦前から多くの家が在来軸組工法で建てられてきました。そして、その既存住宅の増改築はもちろん在来軸組工法で行われてきました。そのため、在来軸組工法で建てられた家は、増改築でも業者を簡単に見つけることが出来ます。基礎の耐震改修や上部構造の部分的交換など、躯体の耐震性に係る部分に関する改修方法も確立されているため、増改築や改修で安全性を向上させながら、使いやすく、きれいな家を手に入れることもできます。

在来軸組工法はどうやって地震に耐えているのか

次に在来軸組工法はどうやって地震などの外力に耐えているのか解説します。

構造の概要が理解できれば詳細な構造計算ができなくても、提案された住宅が安全なのか危険なのか何となくわかるようになります。それぞれの部材の役割とそれぞれがどのように耐震性に貢献しているのかしっかり理解して、悪質業者の嘘に騙されないようになりましょう。

基本的には剛構造

造構造と柔構造

木造住宅は木のしなやかさを利用した柔構造であると説明している人が居ます。この言葉自体は間違っていません。しかし、この言葉が当てはまるのは伝統工法で建てられた家です。在来軸組工法は変形を許容し外力に耐える柔構造ではなく、耐力壁で変形を抑えて外力に抵抗する剛構造です。

実質的には2×4工法とほとんど同様の耐え方をしていると考えていいでしょう。

では、建物の各部分が具体的にどのような役割を果たし、どうやって変形に抵抗しているのか解説していきます。これが理解できれば自分でプランを考えるときや、提案されたプランを見て、それが安全なのかどうか、イメージができるようになるでしょう。

基礎

べた基礎画像

木造住宅において基礎が果たす役割は、「荷重の分散」と「剛性の確保」です。

荷重の分担とは、建物や内部の家具や人間の重さを基礎全体に分散させ、局所的な沈下や建物の変形を抑えることを指します。

剛性の確保は少しイメージが難しいかもしれません。まず、地震や台風などにより大きな外力がかかった際に、耐力壁が抵抗します。するとその耐力壁の直下には、浮き上がろうとする力と、沈み込もうとする力が働きます。この力を基礎に緊結することで抑え込んでいるのです。それにより上部構造全体の変形が抑えられ、倒壊や破損を防いでいます。

耐力壁と配置バランス

耐力壁の配置バランス

耐力壁の主な役割は水平力と呼ばれる横から加わる外力に対する抵抗です。この水平力には自身の揺れや、台風の風圧などが含まれます。

この耐力壁は建物全体にバランスよく配置することが重要となります。量自体が十分でも配置に偏りがあると剛芯と呼ばれる強度の中心点と、重心が大きくずれて、建物全体がねじれるように変形し倒壊する恐れがあります。

水平構面

耐力壁が垂直方向の変形に耐えるためのものであるのに対して、水平構面は水平方向の変形に耐えるために存在しています。

代表的な水平構面部材としては、床が挙げられます。また、一部の屋根も水平構面としての役割を果します。

水平構面の役割は段ボールの底と蓋をイメージしていただければ重要性が理解できるでしょう。段ボールは底と蓋を閉じてガムテープ固定してしまえば簡単には潰れません。しかし、底と蓋が空いた状態であれば簡単に折りたたんでしまうことが出来ます。これと同じことが建物にも起こってしまうのです。吹き抜けなどで大きく水平構面が欠けてしまうとそこが構造上の弱点となってしまいます。

水平構面と吹き抜けに関しては吹き抜けに関しては、別記事で詳しく説明しているのでご参照ください。

それぞれの部材が協力して荷重や外力に抵抗している

各構造の役割

在来軸組工法の基本的な耐震部材とその役割について紹介しましたが、建物はたくさんの部材がお互いを助け合って成立しています。何か一か所を強くすればいいというわけではなく、全体のバランスが重要となります。逆にどれか一つが欠けてしまっては、そこがボトルネックとなり、耐震性は大きく低下します。

無理のある構造計画でも実現自体は可能ですが、その無理はコストや危険性として跳ね返ってきます。計画の初期段階からどのように地震に抵抗しているのかはイメージしながら進めていきましょう。

在来軸組工法の売り文句に使われる嘘「5選」

悪徳業者イメージ

在来軸組工法は何度も説明している通り、施工可能な業者がどこでも見つけられるのが強みです。しかし、広く普及しているがゆえに間違った知識で営業をする業者や、実態を知りつつもポジショントーク嘘を広める業者も存在します。それを信じ込んで本来選ぶべきではない選択をしてしまわないように、よく使われる「間違ったor嘘の売り文句」いくつか紹介していきます。

まずは箇条書きにして紹介します。

  • 日本の長い歴史の中で培われた工法
  • 日本の気候に適した工法
  • プランの自由度が高い
  • 2×4工法はリフォームできない
  • 2×4工法工法は大開口を設けられない

今回紹介するのは上記の5つです。

それでは順番に解説していきます。

日本の長い歴史の中で培われた工法

モノクロ 寺院

この記事をここまで読んだ方ならもうこれが嘘だとお判りでしょう。長い歴史を持つのは伝統工法であり、在来軸組工法はそこから簡略化をした工法です。歴史全体を見てもまだ100年程度しか経っておらず、現代のまともな水準で建てられるようになったのはここ十数年程度です。それまでは様々な問題を抱えていたり、性能不足が目立ったり、今の基準で考えると、よくこんな状態で売っていたなと思ってしまうほどです。

日本の気候に適した工法

日本の田舎の風景

この主張をする方の意見を調べてみると、中途半端に伝統工法の技法や考え方に引きずっているように感じます。

「昔から日本の家は開口部を大きく取り、風を取り入れることで夏の暑さに耐えてきた」
「高気密住宅は設備による換気をしなければ空気が流れない」

前者に関しては完全に伝統工法の考え方です。夏の気温がもっと低かった時代にはそれでいいかもしれません。しかし、毎年のように暑さの記録が更新される現代の日本で、夏にエアコンを使用せずに乗り切ろうと考える方は現実にいらっしゃるのでしょうか。また、開口の大きさに関しても、2×4工法でも4mまでならを開口を開けられます。これ以上の開口を設けようとしている場合は在来軸組工法であっても周辺で耐力壁を確保することになるでしょう。逆に周囲の補強すら考えていないような業者であれば、安全性を明らかに軽視しています。

後者に至っては最初冗談か何かかと思いました。窓を閉め切っていて、何もしなくても風が流れる。それはただの隙間風です。欠陥住宅であることを自ら宣伝しているのでしょうか。

プランの自由度が高い

間取りを検討する夫婦

プランの自由度が高いことは事実です。しかし、その自由度ゆえに安全性を軽視した設計を見かけることがあります。プランの自由度が高いということは比較対象があるはずです。その比較対象は恐らく2×4工法なのでしょうが、この言葉を使う方は一度でも2×4工法のルールに目を通したのでしょうかと心配になります。2×4工法のルールはどれも当たり前のことしか書いていません。逆にこの程度のルールを自由の妨げになると言っている時点で、在来軸組工法でも安全性のを軽視して設計していると言っているようなものです。

ルールを知らずに2×4工法には自由が無いと言っているのならば、その業者は何の根拠も無しにイメージだけで語る業者です。他の部分に関しても不勉強である恐れが拭えません。

2×4工法はリフォームできない

リフォーム失敗

この項目については半分正しく、半分間違っています。2×4工法は実際にはリフォームすることが簡単な建物です。しかし、同時にリフォームを実際にしたことのある工務店は限られます。

2×4工法のリフォームについて一般社団法人日本ツーバイフォー建築協会は以下の4つの理由でリフォームしやすい工法だと説明しています。

  • 構造上のルールが明確であること
  • 仕上げ材を剥がさずに内部がわかる
  • 使用している材料が明確で準備しやすい
  • 簡便に構造的な裏付けをとれる

4つの理由が挙げられていますが、在来軸組工法よりも画一的な工法であるがゆえにリフォームが行いやすいという主張になっています。実際耐力壁の配置などが仕上げを剥がさなければ分からない在来軸組工法よりリフォームがしやすいと考えることは出来そうです。

これから先対応できる工務店が増えれば将来リフォームするなら2×4工法と言われる日が来るかもしれません。

ただし、天井内の懐が小さいため、配管、配線は一工夫必要になる場合もあります。

2×4工法は大開口を設けられない

手でバツを作る男性作業員

2×4工法では大開口を設けられないと主張する方の内、どれだけの方が2×4工法のルールを知っているのか疑問です。具体的には一か所4mの開口を設けることができますが、これは小さな開口だと言えるのでしょうか。

一般的には在来軸組工法は柱から柱までは3640mmか4095mmまでに抑えます。無理をして4550mm以上飛ばすこともあり得ないことではありませんが、推奨しません。在来軸組工法での最大スパンとほとんど同等の開口幅に不満を持つということは、安全性を軽視しているという自白をしているようなものです。

2×4工法との比較

2×4工法の建設現場

ここまでで在来軸組工法の特徴については理解できたことでしょう。

では次はよく比較される2×4工法と構造としてどのような違いがあるのか考えていきます。

在来軸組工法は線で、2×4工法は面で耐える?実はほとんど違いが無い

在来軸組工法と2×4工法

在来軸組工法は柱と梁そして変形に耐えるための筋交いを主に使用するため、部材としては線で構成された構造になります。それに対して2×4工法はユニット化された面で荷重や外力に抵抗するとよく説明されます。

しかし近年では在来軸組工法も面材を併用して変形を抑えることが一般的になりました。そして面材で構成すると言われている2×4工法も面材を外してしまえば細い柱の集合体です。

こうして比較してみると実は大きな違いが無いことが分かります。

2×4工法の方が合理的?

選択肢

では2種類の工法には全く違いが無いとかというと、それは違います。主な違いは水平材と垂直材の接合部によく表れています。在来軸組工法では柱に対して梁を差し込むことで固定していきます。対して2×4工法は一階の面を構成した後、2階の床を面で構成し載せていき、その上に2階の壁を立てていきます。積み木のような方法をイメージすると分かりやすいでしょうか。

また、在来軸組工法は柱や梁を削って他の材を差し込んでいくため、断面欠損が多くなります。その結果見た目ほどの強度が発揮されず、それを補うために金物で補強しているのです。これは伝統工法から派生する過程での欠陥と言えます。古いお寺や神社で柱を見たことがある方は、その太さに驚いたことはありませんか?あのように元々の断面が大きければ接合のために断面欠損が出来ても十分に断面が残り、変形しながら力を逃がすことが可能なのです。

このように接合のために一度欠損を作り、それを補強する在来軸組工法よりも、順に積み上げていく2×4工法の方が合理的と言えるでしょう。

2×4工法の方が安全性が高い傾向にある

安全な家

2×4工法の方が合理的であると説明しました。では安全性は在来軸組工法と2×4工法のどちらが高いのでしょうか。

一概には言えませんが、2×4工法の方が安全性が高い傾向にあります。

その理由は2×4工法の方が構造面のルールが明文化されているからです。在来軸組工法は設計者の判断に委ねられる範囲が広く、設計の自由度が高いと言われますが、その自由に付け込んで危険な設計をする設計者がいるのも事実です。2×4工法は国土交通省告示1540号と1541号に細かくルールが記載されています。

在来軸組工法は危険な構造?

被災家屋

では在来軸組工法で建てられた住宅は危険なのかと問われれば、それは違います。「自由をはき違えて危険な設計をする設計者がいる」ということが、そのまま「在来軸組工法自体が危険である」という結論になるわけではありません。大切なことは構造に対して責任感を持って設計し、それを数値として確かめることです。耐震等級3を取得することが理想ですが、最低でも構造に関して安全性の根拠を提示できる業者を選びましょう。

伝統工法との比較

伝統工法の住宅

伝統工法は在来軸組工法や2×4工法とは全く異なる特徴を持った、ある意味個性的な構造です。

様々な特徴がありますが、以下の2点に絞って違いを解説します。

  • 柔構造である
  • 施工可能な業者が特に少ない

以上2つの特徴を順に解説していきます。

伝統工法は変形することで地震に耐える柔構造

合掌造りの構造

冒頭の在来軸組工法の歴史で説明した通り、在来軸組工法は伝統工法から派生した工法です。しかし、外力に対しての抵抗方法は大きく異なります。

在来軸組工法は2×4工法に近い考え方を取り入れた「剛構造」であるのに対して、伝統工法は変形を許容することで、倒壊せずに耐える「柔構造」です。面材などで強固に固定しないため、揺れ自体は大きくなりますが、変形することで力を逃がすことが出来るため、大きな地震でも倒壊せずに耐えることが出来ます。

それが力学的に証明されているのが、構造計算の方法です。

在来軸組工法は許容応力度計算と呼ばれる計算方法が使用されます。この計算方法は簡単に説明すると、4段階に分けられます。
1.建物にかかる荷重を求める
2.各部材にかかる力を求める
3.各部材の耐えられる力を求める
4.3が2より大きいことを確認する
このように単純に「建物に加わる力」よりも「建物が耐えられる力」の方が大きいことを証明する計算です。

それに対して伝統工法には限界耐力計算という計算方法が使用されます。限界耐力計算は複雑で、建築士でも正確に理解している人は少数でしょう。そのため、概要のみ説明します。限界耐力計算は地震力以外の風圧、積雪などの荷重に対しては許容応力度計算と同様の手順で計算します。そして地震力に対してのみ別の計算を行います。その計算では、建物の変形を見込んだ計算を行います。変形を許容することで、剛構造では安全性が証明できなかった架構でも、安全であると証明できるのです。

施工可能な業者が非常に少ない

人手不足イメージ

伝統工法は2×4工法以上に施工できる業者が少ないため、選択肢自体はかなり少なくなります。しかし、伝統工法を採用している業者は、昔から続いてきた技術力の高い職人たちと付き合いもあるため、建てられる家の品質自体は高い傾向にあります。

進化した新しい軸組工法であるピン工法(金物工法)

近年では在来軸組工法から派生した工法として、ピン工法(金物工法)という工法が考案されました。

ピン工法とは名前の通り、ドラフトピンという特殊な金物を使用することで木材同士を接合し、架構を成立させる工法です。

主な特徴は下記の二点です。

  • 断面欠損を最低限にできる
  • 金物の露出を最低限にできる

特に一つ目の断面欠損を最低限にできるという点は、在来軸組工法の弱点をカバーできる特徴であるため、重要な点になります。

断面欠損を最低限にできる

ピン工法の柱仕口

ピン工法の最大の特徴がこの断面欠損を最低限にできるという点です。木材には金物を差し込むための最低限のスリットと、ピンを差し込む穴のみを開けます。それにより在来軸組工法のような大きな断面欠損を防ぐことが可能となっています。

既存の在来軸組工法では、木材に断面欠損があると、どれだけ大きい部材でも、欠損している部分が弱点となってしまうため、本来必要な断面積よりも大きな断面が必要となり、かなりの無駄が発生していました。

ピン工法ではその無駄を抑えながら、より強い接合を可能にしているため、構造上かなり有利となります。

金物の露出が最低限に抑えられる

ピン工法の接合部

既存の在来軸組工法では木材を刻み、接合した後に外部から金物で補強するという手順で施工していました。そのため、金物が必ず木材の外側に張り付くように施工されていました。それに対してピン工法では金物を内部に差し込むように施工するため、表面上に現れる金物は最低限となります。

吹き抜けなどで梁が表しとなる場合などに、金物が最低限の露出で住むというとの意匠上大きな利点となるでしょう。

最後に

結論

本記事では在来軸組工法の歴史からその特徴を紐解いてきました。工法としては100年程度の歴史ですが、その100年の間に多くの工夫と改善が重ねられて現在に至っています。今ではしっかりと自信をもって人にお勧めすることが出来る工法にまで成熟しています。

しかし、工法としては成熟した一方で、未だに時代遅れの家づくりをしている業者がいることも事実です。そういった方々の嘘の売り文句に騙されないように、よく使用される嘘や他工法との比較も含めて解説しました。

そのせいで、10,000文字を優に超える記事となってしまいましたが、最後まで読んで下さった方はもう十分在来軸組工法について詳しいと言っても大丈夫でしょう。少なくとも勉強不足の営業マンよりは詳しくなっていることは間違いありません。

今後も家づくりに必要な知識を出来るだけ分かりやすく解説する記事を投稿していきます。家づくりのために勉強中の方や将来注文住宅を建てたいという方は、定期的に覗きに来て住宅に関して正しい知識を身に着けていってください。

  • この記事を書いた人

櫛花樹已

愛知県在住で普段は建築設計事務所で働いています。 何かしたいと常に思っているくせに何かするのは面倒くさいという捻くれ者。そんな状況を脱却するために「とりあえずやってみます」の精神で色々やっていきます。

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