建築基礎知識

【建築士が考える】家の選び方-最初に比較する5つのポイント【住宅初心者向け】

2024年9月18日

考える男性

皆さんが家づくりを始めようと考えたときまずはどんなことを考えればよいのでしょうか。家づくりを始めた段階から明確なイメージを持って家づくりを始められる方は希少でしょう。そのため、まずはどんな家が自分たちに合っているのか、それを知る ところからはじめていきましょう。

何となく「こんな家が良いな」「こんなことしたいな」そんなイメージだけを先行させて家づくりを始めてしまっては、後になって「今付き合っている業者では実現できない」「高額な追加見積もりが発生した」「最後まで知ることは無かったが、実はもっといい選択肢があった」そんな事態に繋がってしまいます。

家づくりで後悔したことを調べてみるとその大半は知っていれば防ぐことが出来た失敗です。しかし、家づくりは大半の人は素人、そして二度目は無い人生にとっての一大イベントです。全てを完璧に把握するのは非常に困難です。そこで、まずは住宅業界や家づくりについての全体像を把握し、そこから細部を知っていき家づくりという情報戦を制していきましょう。

販売方法による違い

まずは販売方法による違いについて考えていきましょう。これは「完成している住宅を購入する建売住宅」「計画を立てるところから始める注文住宅」に分けられます。この二つの違いは購入タイミングによる違いがそのまま利点と欠点になっています。

建売住宅の中でもハウスメーカーなどがまとまった土地を購入し、区画整理を行った後に住宅を建てて販売する販売方式を分譲住宅と呼びますが、本記事内では建売住宅として、まとめて扱わせていただきます。

建売住宅

分譲住宅街の写真

利点

  • 費用が安く済む傾向がある
  • 立地が良好なことが多い
  • 速やかに入居できる
  • 事前に生活のイメージがしやすい

欠点

  • 間取りや設備の変更が出来ない
  • 過程を確認できない
  • 個性が無い

建売住宅の最大の利点はやはりその価格でしょうか。建売住宅はハウスメーカーが大衆受けしやすいように考え抜いた間取り、設備のグレードで大量生産している住宅です。建具や外壁材なども大量に仕入れることで通常よりも安く仕入れています。また、打ち合わせに人材や時間を割く必要が無いため、人件費も抑えられます。そのため、同じような家を建てるのであれば建売住宅の方が安く仕上がります。

また、すでに完成している住宅を確認してから入居できるため、生活の流れをリアルにイメージすることが出来ますし、想像と違う仕上がりになるということもあり得ません。さらに気に入った場合は契約後速やかに入居することが出来るため、時間を掛けずに新居を手に入れたい方には良い選択肢でしょう。

立地に関しても分譲地として一般的には手を出しにくい地域をまとめて買い取って住宅街として売りに出すことが多いため、入居者も年代が近く、生活に必要な施設も一通り揃っています。そのため、非常に暮らしやすい場所になっています。住宅に強いこだわりが無く、内見して満足できそうだと感じたのであれば特に不満無く新生活が送れるでしょう。

建売住宅は建てる過程を確認することが出来ません。建売住宅に限定した話ではありませんが、仕上を剝がしてみたらひどい状態だったという実例を私自身目にしたこともありますし、監督をしている友人が気が付かなければ問題になっていたこともあります。その点は一つのリスクといえるでしょう。

注文住宅

間取りを検討する夫婦

利点

  • 間取りや設備が自由
  • 好きな場所に建てられる
  • 家が建てられる過程を確認できる

欠点

  • 計画開始から入居までが長い
  • 建てられてからイメージと異なることがある
  • 価格が安定しない

建売住宅の無難な選択では満足できない。自分たちの暮らしや性格に合わせた家が欲しい。そんな方には注文住宅を前提に考えるべきでしょう。カーサプロジェクトの「product casa」のように個性的な規格住宅もありますが、全体を見ればそのような例は少数でしょう。注文住宅では各ハウスメーカーや工務店、設計事務所と一から家づくりを始めます。メーカーによっては仕様外となり実現できないこともありますが、基本的には施主となる方の要望に沿って家づくりが進行します。自由度は「ハウスメーカー<工務店<設計事務所」の場合が多いですが、業者ごとに異なるため、各業者がどんな家を得意としているのかをしっかりと吟味して選択していくことが重要となります。

本格的な打ち合わせが始まってから時間がかかるのはもちろんですが、業者選びの段階から建売住宅よりも多くの時間が必要となります。しかし長い時間を掛けた家が完成し、理想の家に住み始めてからの満足感は建売住宅では得られないものです。人によっては、打ち合わせ自体がワクワクして楽しいという方もいます。お祭りの準備の方が楽しいという感覚に近いのかもしれません。想像を膨らませることが好きな人にとっては家づくりにかける時間も楽しい時間になるでしょう。

注文住宅というと戸建住宅しか選択肢にないと思うかもしれませんが、「コーポラティブハウス」や「スケルトンインフィル物件」という選択肢もあります。集合住宅でも自分にとっての理想の間取りを実現することも可能なので諦めずに探してみてください。

区分所有による違い

区分所有とは分譲マンションなどのように一棟の建物の内の一部の一部を所有し、廊下や階段、EVを共用で利用するような所有形態を区分所有と呼びます。

建物の区分所有等に関する法律 第一章 建物の区分所有 第一節 総則

(建物の区分所有)
第一条一棟の建物に構造上区分された数個の部分で独立して住居、店舗、事務所又は倉庫その他建物としての用途に供することができるものがあるときは、その各部分は、この法律の定めるところにより、それぞれ所有権の目的とすることができる。

e-eov法令検索 https://laws.e-gov.go.jp/law/337AC0000000069

区分所有と認められるためには構造上、利用上、それぞれに独立性が認められる必要があります。

簡単に言い換えると壁などにより周囲と明確に分断され、分断された場所同士が独立して住居などの用途に利用できる状態であるということです。商業施設のテナントなども区分所有の一例になります。

区分所有された建物は購入したとしても完全に個人の所有物とすることが出来ません。そのため、基本的には自由度と利便性を比較することになると思います。それ以外にも隣人との距離感やプライベートの保ちやすさも重要視されるでしょう。

戸建住宅

戸建住宅 イメージ写真

利点

  • プライベートが確保しやすい
  • 通風、採光が確保しやすい
  • 生活音が漏れにくい
  • 改修やリフォームが自由
  • 庭が自由に使える

欠点

  • セキュリティが対策が難しい
  • 既存のコミュニティに新たに入ることになる場合が多い
  • 階段や段差が多く、将来の生活に不安がある
  • 改修費用などは全て自費

戸建住宅といえばやはり生活音を気にせずに暮らせることが利点でしょうか。建物が物理的に離れているため隣人に気を遣わずに生活を送ることが可能で、プライベートを守りやすいです。もちろん深夜に大音量で音楽を流すなどの常識外れの行動は流石に容認されにくいでしょうが、集合住宅と比較すればかなり許容される範囲は広いでしょう。また、建物の東西南北すべてが外気に接しているため、全室において通風、採光を簡単に確保することができます。また、ガーデニングなどを趣味としている方にとっては庭の存在は欠かせないでしょう。

一方でセキュリティ面は個人レベルでの対応しかできないため、集合住宅には一歩劣るでしょう。また、分譲地などを除けば、永くその土地に住んでいる方々のコミュニティに後から参入することになります。そういった場合は年代や価値観が離れていることも多いので、苦労されることもあるかもしれません。最後に階段や段差についてですが、戸建住宅はその構造上マンションなどの集合住宅よりも段差が生まれやすくなっています。将来高齢化した時のことを考えると不安がのこるかもしれません。

集合住宅

集合住宅 イメージ写真

利点

  • セキュリティが確保しやすい
  • 立地が良い場合が多い
  • コミュニティの年代が近いことが多い
  • 光熱費が抑えやすい
  • 高齢になっても住みやすい

欠点

  • プライベートの確保が難しい
  • 通風、採光の確保が難しい
  • 生活音に気を遣う
  • 改修やリフォームに制限がある場合がある

集合住宅は多くの入居が見込める場所に建てられるため、自然と立地の良い場所に建てられることになります。また、建物の入口と住戸の玄関とで二重のセキュリティ存在し、監視カメラなどが導入されていることも多いため、戸建住宅よりも生活に安心感があります。さらに、意外な利点として光熱費が抑えやすいという点が挙げられます。これは住戸の左右も別の住戸に挟まれていることにより空調負荷が抑えられるため、結果的に光熱費が抑えられるということになります。そのため、この利点はプライベートの確保が難しい、通風、採光の確保が難しい、生活音に気を遣うという三つの欠点と表裏一体の関係になっています。

また、集合住宅は賃貸ではなくとも規約でリフォームやリノベーションに制限が掛けられることも多いため、古い集合住宅を改修してから入居しようと考えている方は事前に確認をするようにしましょう。

新古による違い

新築と中古という点も家を選ぶ際の要素として重要な点です。当然ですが新築と中古では延べ床面積が同程度であっても、その価格は大幅に異なります。しかし、中古住宅はその状態をしっかりと見極めなければ、後々手痛い出費が発生してしまいます。中古住宅の購入を検討する場合は新築以上にしっかりと勉強して購入を検討しましょう。

新築住宅

新築住宅 イメージ写真

利点

  • 建物、設備の性能、品質が高い
  • 間取りや設備の自由度が高い
  • アフターケアが豊富
  • 新築の所有感
  • 維持費用の計画が立てやすい
  • 控除や減税などの措置が豊富

欠点

  • 新築はプレミア価格で割高
  • 実物を確認できない(注文住宅の場合)

新築の住宅に求めるのは安心感であると私は思っています。住宅そのものの性能はもちろん、導入される設備類も品質が向上しています。平成12年に施行された品確法によって定められている住宅性能表示制度が始まって以来、住宅の性能は明らかに向上してきています。現代の水準から当時の住宅を見るとなぜこれがまかり通っていたのかと疑問に感じるものさえあります。もちろん、すべてがそうとは言いません。当時の住宅でも性能にこだわって建てられた住宅はたくさんあります。しかし、その比率は現代とは比べるまでもありません。新築住宅はそれに加えてハウスメーカーによる独自の保証制度なども存在しているため、中古住宅と比べるとかなりの安心感があります。

ただし、安心感の反面で新築住宅にはハウスメーカーの営業、広告費用などが上乗せされているため少し割高となっています。マンションなどでも、入居した瞬間に価値が1割から2割ほど下がるというのは有名な話です。さらに日本は住宅の市場価値はほとんど築年数で決定するため、価値はどんどん低下していきます。しかし、売却を視野に入れていないのであれば関係のない話なので、将来の生活をしっかりと予測して、後悔のない選択を出来るようにしましょう。

中古住宅

中古住宅 イメージ写真

利点

  • 安く手に入る
  • 価値が落ちにくい
  • 歴史を重ねてきた建物ならではの風格がある
  • リノベーションにより価値を高められる
  • 実物を確認して購入できる
  • 速やかに入居できる
  • 立地に優れる場合が多い

欠点

  • 建物、設備の性能にバラツキがある(特に見えない部分の構造や設備配管等の劣化に注意が必要)
  • 間取りや設備が既に決まっている
  • リフォームやリノベーションで思わぬ出費が発生する可能性がある
  • ローン審査が厳しくなる

中古住宅は新築住宅とは逆にリスクと引き換えにすることで安価に住宅を手に入れることが可能です。当然ですが、中古住宅は建てられた年代や施工した業者によっては様々な問題を抱えている可能性があります。

しかし、日本の木造住宅は築20年で価値がほとんど0になるとまで言われています。つまり、ほとんど土地代のみで住宅を購入することが可能ということです。そうなればリノベーションにかなりの費用を回すことが可能となり、その際に不安な点はほとんど解消することが出来るでしょう。この際に予想外の問題により思わぬ出費が嵩むことがあります。そんな事態を避けるためにはホームインスペクションを活用し、住宅の状態をしっかりの見極めましょう。

木造住宅とマンションは資産価値の変動が異なります。マンションの場合は築10年で85%、20年で65%、30年で40%、その後ほどんど横ばいと言われています。全体的に価格低下が緩やかなので、将来売却する際もある程度価格が維持できるでしょう。

業態による違い

住宅を建てることを選択した際には三つの業態から選択することになります。「知名度も規模も大きなハウスメーカー」「地域密着型の工務店」「千差万別の特徴を持つ設計事務所」です。それぞれが売りとしている点は異なるので、それぞれの概要を理解してから細かい業者選びを進めると効率よく家づくりを進められるでしょう。

ハウスメーカー

ハウスメーカー営業 イメージ

利点

  • スケールメリットにより規格に納まる範囲であれば価格が抑えられ、品質も安定している
  • 建売住宅の場合すぐに入居できる
  • 打ち合わせに必要な時間が最も短い
  • アフターケアが豊富
  • 予算の予測をし易い
  • 住宅展示場や宿泊体験により住み心地や品質を確かめられる

欠点

  • 担当者により対応力、設計力に差がある
  • 規格から外れることが困難、若しくは高額な追加費用が発生する可能性がある
  • 営業、広告費用が販売価格に上乗せされている
  • 施工を監視する第三者が居ないので施主自ら監視する必要がある
  • 独自工法の場合、修繕や改築に外部業者を選択することが困難
  • 個性が出しにくい

家づくりでハウスメーカーを選択する最大の利点は、安定感にあると思います。全国規模で展開しているため、施工実績数は圧倒的で、どこかの支店で問題が起きれば本社に連絡が届き、その失敗原因を追究し、今後同様の問題が発生しないように対策を立て、それが全国の支店に通達されます。また、企業としての規模が工務店や設計事務所よりも大規模であることが多いため、広告や営業に力が入っています。その一環として宿泊体験やモデルルームの公開などを行っており、建てる前に住み心地や雰囲気を体験することが可能です。さらにハウスメーカーは独自のアフターサービスが充実しているため、品質についても安心できます。

一方で提供している規格からは外れる場合には予想以上に費用が嵩んでしまう場合や、そもそも対応できない場合もあります。ハウスメーカーに限らずですが、初期の段階でどんなことが出来て、どんなことは出来ないのかはハッキリとさせておきましょう。

工務店

工務店 イメージ

利点

  • 同じ品質であれば最も安価におさえられる場合が多い
  • 地域に根付いている会社が多く、土地に合った家づくりが可能
  • 規模の小ささゆえのフットワークの軽い対応が可能

欠点

  • 会社ごとに当たりはずれが大きい 
  • 設計施工一貫型の工務店は自社の得意な工法や設計に寄せられやすい
  • 施工を監視する第三者が居ないので施主自ら監視する必要がある
  • アフターケアが受けられない可能性がある

工務店とハウスメーカーの境界はあいまいで、明確にここが違うとは明言することは困難です。しかし、一般的には工務店の方が規模が小さく、地域密着型であると言われています。そして、その特徴ゆえにフットワークの軽い対応とその土地に合わせた提案をしてくれることが多くなっています。計画地周辺の交通事情や、土地特有の気候を踏まえた提案をしてもらえることもあります。また、得意な工法やこだわりを持って家づくりをしている会社も多いので、一般的なハウスメーカーとは異なる独自性を出すことも可能でしょう。

ただし、工務店の欠点として、その工法以外のノウハウが少ない場合も多く、自分の理想と異なる場合は無理にその工務店に依頼するよりも、他の選択肢を選択した方が、後々のトラブル防止や時間の節約につながるでしょう。

設計事務所

クリエイターイメージ

利点

  • 設計の自由度が非常に大きい
  • 施工を担当する工務店を外部から確認する監理業務により、施工の透明性を確保できる

欠点

  • 会社ごとに当たりはずれが大きい
  • 打ち合わせと図面作成に長い時間が必要となる
  • 設計監理費が他より割高
  • アフターケアが受けられない可能性がある
  • 予算の予測が難しい
  • 問題が発生した際に責任の所在が曖昧になり易い
  • 事前に住み心地や品質のイメージが掴みにくい

設計事務所は一括りに語ることが困難です。一言に設計事務所といっても、一流建築家の事務所とハウスメーカーの下請けのような仕事をしている事務所では、業務内容は全く異なります。どちらにも所属した経験がありますが、本当に同じ業種なのかと疑うほどの違いです。しかし、それゆえに選択肢の幅が膨大で、根気強く探せばきっとここに頼みたいと思える事務所が見つかるはずです。

そもそも設計事務所を選択肢に入れている時点で、独自性の強い住宅を望んでいる可能性が高いのだと思います。設計事務所の中にはきっとその望みを叶えてくれる事務所が存在しているでしょう。そのこだわりは意匠面に限定されません。構造に強い拘りがある事務所、断熱性に拘りのある事務所、暮らしやすさに拘りのある事務所、事務所の数だけ方針があります。探し出すのは苦労するでしょうが、理想の家が完成した際の満足感は随一です。

建築家の設計した家というと、性能や利便性を犠牲にしていて住みにくい家であると思う方も多いかもしれません。しかし、性能や住み心地を重視して設計を行う建築家も数多く存在します。一見奇抜な建物の方が注目を集めやすいため、建築家は皆そういうものと思われるのも仕方ないことですが、実際にはもっと多様な建築家が存在しています。初めから選択肢の中から除外してしまうのではなく、一度軽く調べてみることをお勧めします。

構造による違い

現代の戸建住宅はその9割が木造住宅です。しかし、それは他の構造が欠陥を抱えているということではありません。かけられる費用と相談しながら、自分たちの理想としている住宅を建てるために最適な構造を選ぶことが重要です。注意してほしいのは構造を先行して選ぶのではなく、自分たちの理想を叶えるための構造を選択するということです。ということで、各構造の強みと弱みを確認しましょう。

木造(W造)

吹き抜けの躯体

利点

  • コストが低い
  • 施工が出来る工務店が多い

欠点

  • 腐朽やシロアリ被害を受ける
  • 火災に弱い

住宅の工法として、木造は日本で最も広く普及しています。求めやすい価格帯であることや、明治以前から継承されてきた技術を活用することが可能だったことがその要因でしょう。木造住宅はそう言った背景から日本全国どこでもで施工実績豊富な工務店を探すことが出来るでしょう。また、ハウスメーカーも同様に木造を専門としている会社が大半です。設計事務所に依頼する場合でも施工を担当するのは工務店の為、複雑な造形であったとしても精度の高い施工が可能となります。コスト面でもS造やRC造の5割から7割程度の坪単価で依頼することが出来ます。

一方で、耐久性に関してはS造やRC造に劣ります。しかし、しっかりと防腐処理、防蟻処理を行い、定期的なメンテナンスさえ怠らなければ性能を維持したまま長く住み続けることが出来ます。

鉄骨造(S造)

鉄骨造 工事 イメージ写真

利点

  • 施工が早い
  • 大空間が実現可能
  • 品質が安定している

欠点

  • コストが高い
  • 火災に弱い

鉄骨造は軽量鉄骨造と重量鉄骨造にに分けることが可能です。一般的に住宅に用いられるのは軽量鉄骨造となっています。住宅の工法としては木造に次いで多く採用されており、多くはありませんが鉄骨造を主力としたハウスメーカーも存在しています。その利点としては工場生産部材が多いことによる、施工の速さと品質の安定感です。また、鉄骨造は大スパンの架構を活かした大空間の実現も可能となっています。しかし、この点は住宅レベルでは持て余してしまうことも多いでしょう。その点も価格と並び、住宅には重量鉄骨造ではなく、軽量鉄骨造が採用される要因の一つです。

また、構造の強靭さや工期に優れる一方で、その材料特性から火災には弱く、価格面でも木造と比較した際のコストパフォーマンスの悪さは気になるという方も多く存在しています。

鉄筋コンクリート造(RC造)

コンクリート工事 イメージ写真

利点

  • 遮音性が高い
  • 構造体の造形における自由度が高い
  • 火災に強い

欠点

  • コストが高い
  • 施工に時間がかかる
  • 施工精度に差が生まれやすい

RC造は壁式構造とラーメン構造に大別することが出来ます。一般的には住宅や低層マンションなどには壁式構造が用いられ、高層の集合住宅にはラーメン構造が用いられます。ラーメン構造は間仕切り壁は鉄骨造と同様の方法で壁が造られますが、住戸同士の戸境壁や外壁はコンクリートで造られるため、壁式構造とラーメン構造のいずれもも、高い遮音性を持っています。また、躯体の造形が非常に自由度が高く、その躯体をそのまま仕上げとすることで、他の構造には出せない力強さを表現することが可能です。

しかし、RC造はその施工方法ゆえに時間がかかる上に、精度も熟練度によって大きく差が生まれます。近年ではプレカット化されている木造や工場で部材を製作するS造とは大きな違いです。また、施工に時間がかかるということは、人件費も比例して増えていきます。そのため鉄骨造以上に坪単価は高くなる傾向があります。

構造による耐震性の違い

構造の話をすると『結局どの構造が一番強いのか』という質問をよく耳にします。私の回答は、『構造で比較する意味がない』です。その理由は構造計算を行い、耐震性を数字によって確認すれば、大きな地震にも耐えることが可能だからです。木造であっても、しっかりした構造計画の上で構造計算を行えば十分に強い建物となります。耐震等級の基準は構造によって異なりますが、最も基準の低い木造であっても、耐震等級3であれば大地震に対しても十分な耐震性を持っています。

繰り返しますが、大切なのは『どの構造かではなく、しっかりとした構造計画を立てて、それを数値化で証明している』といういことです。

しかし、そのうえで最も強い構造は何なのかと問われれば、RC造でしょう。過去の大地震での事例を紐解いてもその点は確かです。

構造による断熱性の違い

断熱性能に関しても耐震性に関する質問と同じような回答になります。どの構造であってもしっかりとした断熱措置を施していれば、快適な室内環境を実現することが出来ます。逆にどの構造であっても断熱措置を施さなければ、冬は寒く、夏は暑いという快適とは程遠い建物となります。

その理由は断熱材の性能に比べれば、躯体や仕上げ材の違いなど高が知れているからです。断熱材と呼ばれる建材は数多く存在していますが、その熱伝導率は0.05~0.02W/mK程度の範囲でまとまっています。では構造材として使用されている木材、コンクリート、鋼材と比較してみましょう。木材の熱伝導率は樹種や含水率、加工状態によって異なりますが、0.1~0.2W/mKです。コンクリートでは1.6W/mK、鋼材は驚異の370W/mKとなっています。

この熱伝導率は数値が小さいほど断熱性に優れていることを表しています。その上で数値を比較すると、最も断熱性が高い木材であっても断熱材の半分以下の性能しかありません。最も断熱性の低い鋼材に至っては、7,400~18,500倍の差があります。これはあくまでも伝導「率」であるため、実際にはこの数値に厚みを乗じる必要があります。

つまり10cmの厚みの断熱材と同じだけの断熱性能を持たせるためには、木材で20~50cm、コンクリートで320cm、鋼材では74,000~185,000cmの厚みを持たせる必要があります。どれも現実的ではないことがお判りいただけるでしょう

まとめ

結論

今回は建築士としての目線で家づくりについて最初に比較しておきたい点について考えてみました。注意点として、当然のことながら、今回挙げた5つの点はそれぞれ独立して考えるのではなく、複合して考えていく必要があります。例として、集合住宅で、中古なのか、新築なのか、新築であるなら、構造はどんなものなのか、その構造の中でも、間取りはどうなっていて、設備はどの程度のグレードなのか、変更は出来るのか、考え始めるとキリがないかと思います。

しかし、だからこそ、一番初めに比較する軸を持ち、その軸に合わせて知識を身に着けていくことが重要となります。そして、各軸に優先順位を設けることを忘れないようにしましょう。その優先順位を忘れてしまうと、いつまで経って考えがまとまらず、疲れ切った果ての妥協や担当者に言われるがままの家づくり、家探しになってしまいます。

そうした先の選択と、そこでの暮らしでは不満と後悔が付きまとうことになるでしょう。そんな未来を回避するために、しっかりと勉強して、満足できる選択をしてください。

  • この記事を書いた人

櫛花樹已

愛知県在住で普段は建築設計事務所で働いています。 何かしたいと常に思っているくせに何かするのは面倒くさいという捻くれ者。そんな状況を脱却するために「とりあえずやってみます」の精神で色々やっていきます。

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