「家づくりについて勉強し始めたけど何から学べばいいかすらよくわからない」「住宅って木造以外で建てることあるの?」「そもそも建物の構造とかよくわからない」家づくりを検討し始めた方は、インターネット上の情報量に圧倒されて、どんなことについて知る必要があるのかさえ曖昧になっている方が多いと思います。
建物についてのプロフェッショナルである設計事務所の人間でも、日々勉強を繰り返しています。建築について長い時間を掛けて学んできた私たちでもこの状態ですので、働きながら、全くの0から知識を集めようと思ったら、その苦労は並大抵のものではないと思います。
そこで、ハウスメーカーや工務店と提携して100棟以上の住宅設計に携わってきた経験と、建築家の事務所スタッフとして働いた経験、さらに学生時代の学びや建築士試験の知識を総動員して、「建物の基本的な構造種別について、一通り網羅できる」記事を作成してみました。
この記事を読めばハウスメーカーや工務店の営業担当者や設計事務所の担当者と打ち合わせをする際に、構造に関しては対等に話し合うことが出来るようになるはずです。
建物にとっての「構造」とは力を負担している部分が何で出来ているかを示す
そもそも建物において構造とは具体的には何を指しているのかご存じでしょうか。一般的には躯体と呼ばれる部分をどのように構成しているかで決まります。躯体とは分かりやすくいってしまえば骨組みのことです。建築基準法上では構造耐力上主要な部分として次のように規定されています。
建築基準法施行令 第一章総則 第一節用語の定義等 第一条(用語の定義) 三号 構造耐力上主要な部分
e-gov法令検索
基礎、基礎ぐい、壁、柱、小屋組、土台、斜材(筋かい、方づえ、火打材その他これらに類するものをいう。)、床版、屋根版又は横架材(はり、けたその他これらに類するものをいう。)で、建築物の自重若しくは積載荷重、積雪荷重、風圧、土圧若しくは水圧又は地震その他の震動若しくは衝撃を支えるものをいう。
https://laws.e-gov.go.jp/law/325CO0000000338/20200907_502CO0000000268-Mp-Ch_1-Se_1
すこし長いので要約すると「基礎、基礎ぐい、壁、柱、小屋組、土台、斜材、床版、屋根版又は横架材の内で、力を負担する部分」となります。これらの部分が木で組まれていれば木造、鉄であれば鉄骨造、コンクリートであれば、鉄筋コンクリート造と呼ばれるようになります。
力を負担しない部分の例としては集合住宅などでの間仕切り壁などが代表的なものになります。木造の戸建住宅では耐力壁ではなくても、柱が梁からの力を受けているため、仕上げの下地となる間柱や胴縁などを除き、ほとんどすべての部材が構造材となります。
木造(W造)の分類と特徴
- 他構造より安価
- 躯体が軽量
木造は日本で最も親しまれている構造です。鉄骨造や鉄筋コンクリート造は明治以前に西洋文明の流入から日本に広がっていきました。一方で、木造は日本の文明の発達と共に歩み、長い時間を掛けて発展してきました。また、コスト面も優秀で鉄骨造や鉄筋コンクリート造と比較すると、半分程度の坪単価で家を建てることが可能です。こういった二つの背景から施工実績が豊富で、地元の小さな工務店でもまず間違いなく対応してくれます。ハウスメーカーでも同様で、木造を主軸に展開しているメーターは豊富に存在しているため、選択肢は多岐にわたります。
しかしその反面、耐久性は他の工法よりも低くなる傾向があるため、長く住み続けたいと考えているのであれば、定期的なメンテナンスと、傷んでいる部分の早期修繕が必要となります。修繕は長期的な視点で計画していく必要があり、地元の小さな工務店などは十年後に修繕を依頼しようと思っていたのに、頼もうと思った時にはもう無くなってしまったという話も聞きます。これは小さな工務店にも簡単に依頼できるデメリットと言えるでしょう。
万が一、修繕しようと思った時に当時依頼した工務店が無くなっていたとしても、書類などがしっかり残っていれば他の工務店にも依頼できるため、メンテナンスが出来ないという事態に陥ることはまずありません。
【在来軸組工法】 最も普及しているため国内どこでも対応可能
- 施工可能な業者が多い
- 勉強不足な業者も多い
- プランの自由度が高い
- 増改築がしやすい
先程まで語った木造の特徴のほとんどは在来軸組工法の特徴の特徴と言っても過言ではありません。在来軸組工法とは後述する伝統工法を簡略化した工法のことです。住宅系の情報発信や勉強不足な営業トークを見ていると、「在来軸組み工法は日本で長く受け継がれてきた工法だから安心!」という、間違った説明を見ることが多々あります。伝統工法と在来軸組工法は全くの別物です。
在来軸組工法は戦後の住宅不足を解消するために後述の伝統工法をベースに簡略化と補強を施して生まれました。そのため、ある意味では鉄骨造や鉄筋コンクリート造よりも歴史が浅い工法と言えます。
しかし、歴史が浅いとはいえ、その圧倒的な施工件数から、既に十分に成熟している工法です。通気工法が普及するまでは壁内で結露が発生し、躯体の腐朽やカビの繁殖が起こったり、確認申請の審査の甘さから構造の検討を十分に行わずに建てられた家が震災で倒壊したりと、良くないイメージを持つ方もいらっしゃいますが、近年では正しい知識が普及して基本性能が大きく向上しました。そのため、正しい知識を基に、正確な施工が行われていれば、十分に高性能で住みやすい住宅を建てることが出来ます。
近年では派生形として金物工法(ピン工法)という工法も生まれており、今現在も進化を続けています。
正しい知識が普及してきた在来軸組工法ですが、未だに数十年前の知識で建てる工務店も存在します。そんな工務店を簡単に見分ける方法は、住宅の性能に関して数値を基にした説明を求めることです。きちんと勉強している工務店をなら、近年の耐震等級などの明確な基準をベースに説明をしてくれます。
【2×4工法(枠組壁工法)】合理性を追求した木造工法
- 設計、施工共に比較的簡単で、品質が安定している
- 気密性に優れる
- 耐火性に優れる
2×4工法は19世紀に北米で生まれた工法です。ツーバイフォー工法と読み、日本の建築基準法上では木造枠組壁工法として記載されています。
2×4工法と呼ばれる由来は使用される部材の断面に由来しています。2インチ×4インチの断面をもつ部材を組合せてベースとなる枠組を造り、パネルを張り付けて固定することで、一つのユニットとします。このユニットを一つの単位として建物を建てることで、省力化、効率化、単純化を図っています。また、2×4工法は19世紀の北米、つまり西部開拓時代に開発されました。その目的は、熟練の技術や万全の設備がない状態でも十分な住居を確保することでした。そのため、誰でも簡単に施工できることが大きな利点となっています。そのため、最終的な完成度が職人の熟練度によって左右されにくくなっています。
また壁を完全な面で構成するため、構造的にも安定しており、耐風性、耐震性は在来軸組工法よりも優秀だと言われています。在来軸組工法は自由度故に耐震性をおろそかにされることがある一方で、枠組壁工法は基本的な規定を守りながら設計、施工すれば十分な耐震性を持ちます。
しかし、枠組壁工法が特に優れているのは耐震面ではありません。気密性、耐火性こそが最も優れている特徴と言えます。特に耐火性は省令準耐火認定を受けており、在来軸組工法や伝統工法と比較すると明確に勝っている点だと言えます。
住宅内でのシェアも伸びており、2008年以降は毎年10%を超えています。そのため、施工可能な業者も以前より増加しているため、業者選びも苦労することは無いでしょう。
省令準耐火とは、建築基準法で定められている準耐火構造と同等の耐火性能を有するとして「独立行政法人住宅金融支援機構」が認定している構造です。
【伝統工法】長い歴史の中で培われてきた伝統技術
- 大断面部材による力強い空間構成
- 他二つの木造工法より割高
- 施工可能な業者が少ない
- 気密性を上げにくい
- 大地震後は補修が必須
最後となる伝統工法は、日本国内で長い時間をかけて成長してきた工法です。他二つの工法と比較すると大きく異なる点は、揺れに対しての耐え方です。在来軸組工法と2×4工法は耐震壁が力を負担する「面で抵抗する」構造であるのに対して、伝統工法は柱、梁とそれを繋ぐ接合部が力にを負担する「線と点で抵抗する」構造です。
合板などの面材で柱と梁を固定することがないため地震などで大きな外力を受けた際には大きく変形します。その代わりに変形能力は非常に大きく、その変形によって力を吸収し地震に耐えるという考え方です。面材により変形を抑える他二つの工法とは対照的です。
そのことを象徴するように伝統工法とそれ以外の木造では採用される構造計算が異なります。通常住宅規模の構造計算には「許容応力度等計算」という計算方法が用いられます。この計算方法は簡単に説明すると地震によって加えられる力により、部材や接合部が壊れないことを証明する計算方法です。つまりは剛構造ということになります。一方で、在来軸組工法はその特性を最大限発揮するためには「限界耐力計算」という計算が必要となってきます。この計算方法は変形を許容し、その変形により耐える。つまりは柔構造です。
後者の限界耐力計算は、60mを超える超高層建築物にも用いられる高度で複雑な計算方法です。そのため実際に計算することが可能な業者は少数です。しかし、いざというときに命を守るためには重要なことなので、必ず構造計算を依頼するようにしてください。
変形を許容するということは、倒壊はしなくとも、小さな損傷や設備配管の脱落などが起こる可能性は高くなるため、大地震後の補修は必須となるでしょう。
鉄骨造(S造)の分類と特徴
坪単価ソース
- 工期が短い
- 結露対策に外断熱必須
鉄骨造は大小問わず商業施設や工場に良く採用される構造です。また、低層の集合住宅や超高層建築も鉄骨造で建てられている場合が多くなっています。使用される場所や用途の広さから分かる通り、非常に汎用性が高く、優秀な構造です。
ただし、坪単価は木造よりも高くなるため、戸建住宅に採用されることは少なくなっています。しかし、それは鉄骨造の良さを損なうものではありません。十分な予算を確保可能な方にとっては魅力的な特徴を数多く持っています。
共通する明確な利点としては工期の短さが挙げられます。これは工場生産部材が多いことに起因しています。その一方で鉄骨は熱の伝導率が構造材の中で最も高いため、熱橋という現象が発生しやすくなっています。そのため、構造体内部での結露防止や断熱性能向上のためには外断熱がほぼ必須となります。
【重量鉄骨造】圧倒的な大空間と施工期間の短さ
- 大スパンの設計が可能
- 軽量鉄骨よりも高額
- 長寿命
- 躯体が重たい
重量鉄骨造とは建築をあまり知らない方が鉄骨造と言われてイメージするであろう骨組みです。H型やロ型の柱にH型の梁を掛けて骨組みを形成していきます。その鉄骨の厚みが6mmを超えると重量鉄骨造と呼ばれます。基本的に住宅規模程度の小さな建物以外は重量鉄骨造となっています。
その特徴は大スパンの空間が構成することが出来るということです。10m程度のスパンなら簡単に実現することが可能となっています。法務省統計局の統計によると住宅の延べ床面積の平均は100㎡以下とされています。そのため、極端な例ですが、広い面積が必要となる平屋建の場合でも、建物の四隅に柱を立ててしまえばあとは内部の間仕切り壁を完全に自由にすることが可能となります。
現実味を帯びていない例でしたが、鉄骨造がどれだけの大空間を実現可能なのかは理解していただけるかと思います。しかし、それだけの広さは住宅にとっては過剰であることが多いため、住宅にはあまり用いられないというのが現実です。
【軽量鉄骨造】コストパフォーマンスに優れた優等生
- コストが抑えられる
- 工期がより短く
- プランの自由度は低い
- 遮音性が低い
軽量鉄骨造が重量鉄骨造と異なる点は使用する部材断面の厚みです。重量鉄骨造の項目でも説明した通り、その断面厚が6mmを超えると重量鉄骨造と呼ばれ、それ以下ならば軽量鉄骨造となります。当然ですが厚みが薄くなるということは強度が下がることになります。そのため、重量鉄骨造ほどの大スパンを構成することは出来ません。スパンは最大でも6m程度が限界です。しかし、住宅規模の建物にとっては十分な広さです。
また、異なる点は断面の厚みのみではありません。厚みと同様に柱自体も細くなります。それにより、柱型が建物の内側に現れることが無く、完全に壁厚の内側に収めてしまうことが出来ます。そのため、重量鉄骨造や鉄筋コンクリート造よりもすっきりとしたシンプルな印象となり、建物角のデッドスペースも生まれません。それにより無駄のない家づくりが可能となります。
さらに、部材が小型軽量化されたことにより施工性も向上しているため、工期も短くなり、材料費や人件費も抑えられることにより、重量鉄骨造よりも低コストで建築可能です。
ここまでであればいいことばかりですが、欠点も抱えています。それは躯体の軽さによる遮音性の低さです。遮音性が重要となる集合住宅などにはあまり向かない工法かも知れません。
鉄筋コンクリート造(RC造)の分類と特徴
- 躯体が重い
- 結露対策に外断熱必須
- 工期が長い
- 遮音性に優れる
- 施工業者により制度に差が生まれる
鉄筋コンクリート造(以下RC造)は鉄骨造以上に坪単価は高くなりがちで、躯体も重たく、工期も長い。そのためか、戸建住宅ではほとんど採用されることがありません。その一方で中高層の集合住宅には非常に頻繁に用いられています。
集合住宅で高頻度で用いられている理由は、遮音性と耐風性、耐震性という三つの点で非常に優れているからです。
部屋選びで音が気になるならRC造を選べという言葉を聞いたことはありませんか?その言葉の通り、RC造の建物は遮音性に優れています。これはコンクリートという重たい材料で外壁や戸境壁を隙間なく形成することによって得られる特性です。鉄骨造も高層建築物に頻繁に用いられます。しかし、その用途は商業用建物であることが多くなっており、それは遮音性能の求められている水準が、住宅と商業施設では異なるためです。この遮音性の高さは戸建住宅でも同様に発揮されるものであるため、RCの壁式構造で建てられた家は住戸内の遮音性も優秀で、周囲の音に敏感な方や、音に係る仕事をする方にはおすすめの構造です。
また、その躯体の重さから、耐風性にも優れています。皆さんも一度は読んだことがあるであろう「三匹の子豚」で、藁の家と木の家はオオカミに吹き飛ばされてしまいましたが、煉瓦の家は最後まで耐えきりました。それはこの躯体に採用されている材料の重さがカギになっています。耐風性の高さを示す分かりやすい統計データとして、沖縄県の「新設住宅着工統計」があります。勢力の強い台風が頻繁に上陸する沖縄では、年により違いはあるものの、建てられている住宅の7割から9割がRC造となっています。全国平均が3割程度であることから、その需要の高さが伺えます。
RC造が強いのは風にだけではありません。コンクリートと鉄筋がお互いの弱点を補いあい、躯体全体に接合部が無く一体の剛構造として揺れに抵抗することが出来るため、非常に高い耐震性を持ちます。
意匠面でも非常に特徴的で、コンクリート打ち放しによる構造体を剝き出しにした意匠は他の構造では表現できない力強い印象を与えてくれるます。デザイナーズ物件などのお洒落な住宅に憧れている方にもおすすめできるでしょう。
【ラーメン構造】汎用性が高く、集合住宅に最適
- プランの自由度が高い
- 高層化が可能
ラーメンとはドイツ語で枠組を意味する単語です。その言葉の通り、柱と梁を主軸とした構造になっています。揺れに対抗するために耐力壁も必要となりますが、基本は柱と梁が通っていれば、内部の間仕切り壁の構成は自由になります。そのため、間取りの自由度はかなり高いと言えるでしょう。
後々でも内部の間仕切り壁は比較的自由に変更することが出来るため、新築という選択肢以外にも、中古物件を購入して自分好みにリノベーションをすることも可能です。RC造の集合住宅は価値も落ちにくいため、資産形成の面でも良い選択となるでしょう。
しかし、建物の使い勝手の面で比較するとラーメン構造は柱が部屋の隅に現れてしまうため、壁式構造よりも内部空間を有効利用することが難しくなってしまうという欠点を抱えています。
また、壁式構造との大きな違いとして、壁式構造は5階建程度が限度である一方で、20階を超える高層建築も可能です。そのため、高層の集合住宅はまず高確率ラーメン構造で造られています。集合住宅の購入を検討している方は参考にして下さい。
基本的に高層建築はラーメン構造のRC造か重量鉄骨造、若しくは本記事では紹介していませんが、鉄骨鉄筋コンクリート造(SRC造)やコンクリート充填鋼管構造(CFT造)のいずれかで建てられています。
【壁式構造】中低層専用だが、最高の耐震性を持つ
- 耐震性に特に優れる
- プランの変更が困難
- 5階建程度が限界
壁式構造はラーメン構造とは対照的に壁で全ての力を負担するという考え方です。ラーメン構造が枠組ならば壁式は箱というイメージです。そのため、ラーメン構造では柱が受け持っていた建物の自重も全て壁で負担することになります。それに伴い壁はラーメン構造よりも厚くなる傾向にあります。また、高層化するに伴い建物自体の荷重が増加し、それに伴い壁も厚くする必要があるため、5階建て程度が限界となります。
RC造は全体を通じて地震に強いという傾向がありますが、壁式構造は特にその傾向が強く、最も耐震性に優れ居ている構造と言っても過言ではありません。そのことを示すデータとして阪神淡路大震災での被害調査を例として挙げさせていただきます。
WRC 造建物は,震度階Ⅶとそれに近い震度階Ⅵの周辺 地域に 3 000 棟以上が存在していたと推察されています。 そのなかで比較的震度が大きく感じられた地域内で実施 された 1 042 棟の調査結果について説明します。この調 査は,旧基準に基づいて建設された建物を含んでいます が,上部構造が大破・崩壊した例は報告されていません。
講座壁式鉄筋コンクリート(WRC)造建物入門②WRC造建物の過去の地震被害 尾崎純二 https://www.jstage.jst.go.jp/article/coj/56/3/56_246/_pdf/-char/ja
引用文から分かる通り震度7の震災でも倒壊が0という圧倒的な耐震性を誇っています。
しかしその高い耐震性を発揮するためにラーメン構造よりも制限が多くなっています。壁で力を負担しているため、柱と梁で力を負担しているラーメン構造よりも壁の位置に制限が生まれてくるのです。また、その壁の位置は改築時にも変更することが出来ません。それにより中古物件を改装する際にも大きな制限が生まれてきます。ただし、通常使用する分には不便するほどの制限ではありません。むしろ住宅として使用する分にはこれ以上の広さは過剰と言えます。
各構造の比較
ここまでは各構造の特徴を大まかに確認してきました。では実際にはどの工法が優れているのか比較していきたいと思います。
耐震性は各構造ごとに基準が異なる
建物の耐震性を表す用語に耐震等級という単語があります。正確な説明ではありませんが、分かりやすくイメージしていただくために情報量を削ってご説明します。
建築基準法に定められている最低限度の耐震性を耐震等級1として、そこから1.25倍の強度を持たせたものが耐震等級2、1.5倍の強度を持たせたものが耐震等級3となります。実際にはこの基準以外にも細かい基準や確認事項が増えるため、これ以上の強度となりますが、現段階ではこのイメージを理解してください。
この耐震等級の倍率自体はどの構造でも共通しています。しかし、木造在来軸組工法と木造2×4工法、それから鉄骨造、RC造は同じ耐震等級であっても最終的な耐震性は異なります。その理由は、木造在来軸組工法と木造2×4工法、鉄骨造とRC造では建築基準法で定められている最低限度の基準が異なるからです。
在来軸組工法をを1とした場合、2×4工法は1.25、そして鉄骨造とRC造は1.5倍の耐震性がそれぞれ耐震等級1となっています。つまり、在来軸組工法の耐震性を1とした場合、各構造ごとの耐震等級をは次の表のとおりになります。
耐震等級1 | 耐震等級2 | 耐震等級3 | |
在来軸組工法 | 1 | 1.25 | 1.5 |
2×4工法 | 1.25 | 1.5625 | 1.875 |
鉄骨造、RC造 | 1.5 | 1.875 | 2.25 |
つまり、在来軸組工法の耐震等級2は2×4工法と同等、在来軸組工法の耐震等級3は鉄骨造やRC造と同等ということになります。
しかしこれは在来軸組工法が劣っている、危険な工法であるということではありません。震度7が繰り返し襲った熊本地震でも在来軸組工法の住宅が倒壊せずに残っている例もあります。そして在来軸組工法の住宅の中でも、倒壊せずに残っている住宅と倒壊した住宅を調査すると耐震等級3を取得した住宅は倒壊していないことが判明しました。つまり、在来軸組工法でも耐震等級3を取得できるだけの構造とすれば、大地震に対しても十分な安全性を持たせることが可能ということです。
このことから、耐震性に関しては構造で選ぶのではなく、きちんと構造計算を行い、大地震に対しても十分な安全性を確保できる水準を目指すことが重要になるということがお判りになるかと思います。
断熱性、気密性では鉄骨造が一歩劣る
建物の断熱性を表す用語として断熱等級という単語があります。この等級は2022年に大幅な見直しが行われ、これまでは4が最高であったものが一気に7まで引き上げられました。
この基準には耐震等級のように構造ごとの基準の違いはなく、純粋に断熱性能のみによって評価されます。現状では大抵のハウスメーカーが断熱等級4以上をクリアしています。また、大手のハウスメーカーであれば断熱等級5を標準としているメーカーが大半です。しかし等級6、等級7には苦戦を強いられているメーカーも多く、特に躯体の熱伝導率が高い鉄骨造はその傾向が強くなっています。また、鉄骨造は計算上の数値は十分でも、どこか一か所でも施工ミスや設計上、納まり上の不備で断熱、気密に隙間が出来た場合、一気に躯体を温度が伝わってしまうというリスクを抱えているため、特に施工中の確認が重要となります。
気密性能についての指標についてですが、気密性能については耐震等級、断熱等級のように建物全体の性能を表す指標はありません。しかし、気密性能を高めるために重要な部分となるサッシについては明確な基準が定められています。それは日本産業規格(JIS規格)で定められている気密等級で、A-1からA-4で表されます。この基準においては数値の大きいものほど性能が優れているとされています。
また、等級という表現とは異なりますが、「C値」という指標も存在しています。これは建物全体の隙間の量を表しており、以下の式で表されます。
C値=合計隙間面積/延べ面積
この式からわかる通り、C値は小さいほど気密性能として優れています。
このC値には目指すべき指標が定められてはいません。そのため、具体的にどの程度あればよいとは一概には言えませんが、一般的にはC値=1.0以下が高気密住宅と呼ばれています。
コスト勝負では木造が圧倒的
各構造の建築コストを確認するために2023年の建築着工統計調査を確認します。数値を抜き出すと、コストの高い順に、「RC造:103.7万円/坪」「鉄骨造:92.8万円/坪」「木造:67.4万円/坪」となっています。木造とRC造を比較すると1.53倍、木造と鉄骨造を比較すると1.37倍と、かなり大きな差があることが分かります。
この数値を基ににして戸建て住宅の平均的な面積と言われている35坪で家を建てる場合、「RC造:3629.5万円」「鉄骨造:3248万円」「木造:2359万円」となっており、1,000万円程度の差が生まれてきます。
これを20%を頭金として支払い、35年ローンとして月々支払っていくシミュレーションをすると、「RC造:頭金725.9万円、月々6.913万円」「鉄骨造:頭金649.6万円、月々6.186万円」「木造:頭金471.8万円、月々4.493万円」となります。ここに土地代、外構代などが加わってきます。
さらにこの木造の坪単価は、所謂ローコスト系のハウスメーカーや工務店から高級路線のメーカーまで、様々な建物が混ざって算出された坪単価です。そのため、ローコストを追求すれば、鉄骨造やRC造とは2倍近い価格差が生まれる可能性もあります。
各構造の比較では目標を明確化することが重要
各構造の比較すると、コストパフォーマンスは木造が他を圧倒していますが、それ以外では通常使用する分には極端に大きな差は生まれにくいと考えてもいいでしょう。それ以上に重要なのは、どの構造を選ぶかではなく、どの水準を目指すのかを明確にしておくことです。そしてその目標に対して、しっかりと数値で確認できるようにしておくことです。
そのことを忘れなければ大きな後悔をする確率はかなり下げることが出来るようになります。そこからに細かい納まりによる性能低下なども考慮すれば、されなる性能向上が見込むことが出来ますが、一般の方がそこまで踏み込んで知識を付けることは非常に困難です。
そのため、まずは一般的な数値として示すことのできる目標について勉強して、その目標をしっかりと達成できるメーカーを選ぶことが、後悔しない家づくりへの近道となります。
【統計からみる各構造の使用されている割合】採用されやすい構造は建物の用途により異なる
最後に現在新しく建てられている住宅はどんな構造で建てられることが多いのかを確認するために、政府統計総合窓口「e-Stat」を利用し2023年の新築住宅戸数を表2として整理します。横軸を各構造の年間着工数(新築に限る)、縦軸を住宅の分類とします。その他の欄には、木造、S造、RC造以外の構造全てが含まれています。また、給与住宅は総数が少ないため記載していません。
木造 | 鉄骨造 | 鉄筋コンクリート造 | その他 | 計 | |
持家 | 197,991 | 23,473 | 2,244 | 644 | 224,352 |
貸家 | 120,958 | 85,268 | 134,237 | 3,431 | 343,894 |
分譲住宅 | 133,222 | 5,541 | 105,425 | 2,111 | 246,299 |
計 | 452,171 | 114,282 | 241,906 | 6,186 | 814,545 |
表2では戸数しか示していないため、集合住宅の着工数は不明です。また、住居の数という点では建物自体の数よりも、実際にどれだけの人が住んでいるのかという点の方が重要であると考えます。そのため、本記事では着工数ではなく戸数に着目して分析していきます。
なお本統計において持家とは実質的に戸建住宅を指し、貸家とは戸建て、集合問わず賃貸住宅を指し、分譲住宅とは分譲地の戸建てと分譲マンションを指します。
持家住宅は木造のシェアが9割と圧倒的
一目見てわかる通り、持家の構造別割合は、木造が9割近くを占めています。次いで鉄骨造が1割近くを占めており、残りの極わずかな割合をRC造とその他構造で分けています。RC造が極端に少ないのはRC造を手掛けているハウスメーカーが少ないことが要因でしょう。鉄骨造を採用しているハウスメーカーは高級路線の企業でいくつか存在しますが、RC造はそれよりも遥かに少なくなっています。
日本のどこの住宅地を見ても鉄骨造やRC造で造られている住宅はほとんどありません。よほどの高級住宅地で見る他には、極一部の高所得者や物好きが建てている家を稀に見るくらいでしょう。これはやはり建築コストの差が大きいと思われます。
木造住宅は多くのハウスメーカーや工務店が手掛けているため、同じ木造内で比較しても価格差が大きいため、建物代だけならRC造や鉄骨造の半分程度で建てられる場合もあるため、よほど資金に余裕がある方以外は木造で住宅を検討することが多くなるでしょう。
貸家は構造ごとの割合の差が少ない
貸家、つまり賃貸住宅は構造の比率に大きな偏りはありません。これは貸家には多くの形態があることが要因となっています。
レオパレスなどの賃貸住宅を展開している会社の集合住宅は建物の規模に合わせて木造、鉄骨造、RC造などの多彩な構造を用意しているほか、戸建て賃貸ブランドであり「casita」など需要に合わせて数多くの選択肢が存在しています。
単身者向け、多世代向け、一時の出張用など、規模や居住者により最適な構造は異なります。それが貸家の多様性を養っているのでしょう。
分譲住宅はRC造と木造で9割を占める
分譲住宅には、ハウスメーカーが土地を買い取り、分割して戸建ての分譲住宅地として売り出す方式と、ディベロッパーがマンションを建設し、販売する方式に分けられます。その内前者は木造戸建住宅、後者はRC造集合住宅が大半となります。
グラフを見るとその点が良く反映されたグラフとなっており、木造とRC造が大半を占めています。
鉄骨造は住宅には不向き?
ここまで住宅の所有形式別に構造の割合を見てきましたが、鉄骨造が多くを占めているものはありませんでした。強いて言えば貸家では25%程を占めていましたが、それでもシェアは木造、RC造よりも少なくなっています。
では鉄骨造は住宅には向いていない構造なのかと問われればそれは違います。その証拠に鉄骨造を主力にしているハウスメーカーも存在しています。鉄骨住宅には良さがたくさんあります。それでもシェアで上位になれない理由を考察してみます。
持ち家でシェアを多くとることが出来ない理由はシンプルで、木造のコストパフォーマンスが優秀すぎるという一点です。木造住宅と差別化するために、鉄骨住宅は高所得者向けの高級路線に舵を切るしかなく、結果的に棟数は伸びにくくなっています。しかし、予算が十分に確保できるのであれば非常に良い選択肢となります。
次に貸家のシェアが伸びない理由ですが、一言で表せば需要が分散していることが理由となります。賃貸住宅は非常に多様な需要があり、木造、鉄骨造、RC造がバランスよく必要とされます。どれか一つの構造のシェアが伸びるというのはあまり健全な状態とは言えません。
最後に分譲住宅でシェアが伸びない理由ですが、これは先ほど分譲住宅の項目で述べた通り、戸建分譲住宅は木造、分譲マンションではRC造がコスト面、性質面で優秀であることが要因です。
このように鉄骨造の割合が低い要因は鉄骨造に欠陥があるというわけではなく、コストの兼ね合いや、性質的に他構造の方が合理的であるという理由が主なものとなります。そのため、シェアが低いという理由で鉄骨造が悪いものであると勘違いしないようにしましょう。鉄骨造を採用する理由があれば、自信をもって採用してください。
最後に
本記事では各構造の基本的な知識とそれぞれの比較を行ってきました。長い記事でしたが、ここまでこの記事を読んで頂いたなら、十分建物構造の基礎知識は身についたはずです。
営業担当者は自身の会社のためのポジショントークをするでしょうが、正しい知識を身に着けて、会話の中に含まれる嘘を見抜くことが出来るようになりましょう。本ブログでは、そんな方々のサポートをするために出来るだけ詳しく、分かりやすく、建物についての知識を発信していきます。
今後は各構造についてさらに踏み込んだ内容をまとめた記事や住宅性能評価についてまとめた記事を作成していくので、建物について勉強していきたいという方は、定期的に覗きに来てください。