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【建築士と学ぶ】だれも教えてくれない。既存住宅の住宅性能評価について

「既存住宅の住宅性能評価について検索しても、びっくりするくらい情報が出てこない」

この記事にたどり着いた方はそんな方が多いのではないでしょうか。実際、2022年の段階で既存住宅の住宅性能評価申請数はなんと215戸しかありませんでした。そんなニッチな部分について解説するメリットはほとんどないので当然のことです。しかし、この記事を読めば既存住宅の住宅性能評価とはどんなことをするのか、何が必要なのか、その手順まで分かるようになります。

住宅ストックが増え続ける昨今、既存住宅を活用する需要は高まっています。既存住宅の活用のために必要な情報である、既存住宅性能評価についての情報不足が少しでも緩和されることを祈り、この記事を公開します。

考える男性

新築住宅と中古住宅の住宅性能評価では、そもそも目的が異なる

同じ住宅性能評価でも新築住宅と既存住宅では大きな違いがあります。それは評価をする目的です。そして、その目的は評価項目にはっきり表れています。

「新築は性能の客観化」「中古は現況検査」が主な目的

新築住宅で住宅性能評価を取得する目的は、その住宅の性能を客観的に評価することが目的となっています。評価する各項目が、どの程度の水準であるのかを評価することで、性能を可視化して、購入時の比較検討を行いやすくして、安心して売買を行えるようにしています。

一方で、中古住宅の住宅性能評価の目的の中で最も大切にしているのは、その建物の現状の劣化具合を確認することです。その根拠となるのが、必須項目となっている内容です。

新築住宅での必須項目は別記事で詳しく解説していますが、「住宅を長く使うための項目」と「環境負荷を低減させるための項目」が主なものとなっています。

では中古住宅の必須項目はどうなっているのか確認すると、現況検査が必須検査項目となっています。そして、新築住宅の評価項目である「構造の安定」「火災時の安全」などの項目は個別性能評価としてオプション扱いとなっています。

このことから、中古住宅は性能の評価よりも、現状の劣化具合を調査するという目的の方が優先されていると分かります。

中古住宅で住宅性能評価を行うメリット4選

新築の場合と同様に住宅性能評価を取得することには多くのメリットがあります。

主なものは下記の4つが挙げられます。

  • 購入者からの信頼性向上
  • 売却時の価値向上
  • リフォーム、リノベーション計画の指針となる
  • 金融機関の審査に有利となる

それぞれ順番に解説していきます。

購入者からの信頼性向上

新築の場合と同様に第三者機関による検査を受けたことによる信頼性向上が見込めます。検査を受けた結果次第ですが、買主も安心して物件を購入することができます。売却を考えているものの、なかなか買い手が見つからないという方は一度住宅性能評価を受けることを検討してみることをお勧めします。

検査により予想以上に状態が悪いことが発覚してしまうパターンもありますが、それでもその後の補修費用の算出や更地にするための判断材料となるので、買い手はつきやすくなります。

売却時の価値向上

前述のの信頼性向上による結果として物件自体を購入するための判断材料が増えることにより、買い手が付きやすくなるのはもちろんですが、物件の状態が良好であれば、見込むべき補修費用が少なくなり、結果的に売却価格に向上に繋がります。

金融機関の審査補や税制上で有利となり、補助金の交付も受けられる。

住宅性能評価を受けることにより、金銭面では大幅に有利になります。その代表的な例としては、住宅性能評価の結果は住宅ローンを組む際の審査が挙げられます。

また、本来受けられない住宅ローン控除評価次第で受けることができるようになる他、すまい給付金などの給付金、補助金の交付を受けることが可能となります。

リフォーム、リノベーション計画の指針となる

ここまでに紹介した3つメリットは売買に関係する要素でした。しかし、住宅性能評価の取得は、自ら維持管理をするためにも役立ちます。住宅性能評価書の交付を受け、住宅の現状を正しく把握することで、今後どの部分を優先的に補修していく必要があるのかを専門知識が無い一般の方でも簡単に方針を立てることが可能になります。

もちろんですが、この点も売買にも有利に働きます。買主がその住宅購入後にどの程度の補修を行うべきであるのか明確にすることで、資金の計画を立てやすくなり、結果的に早期売却へ繋がります。

中古住宅の住宅性能評価項目は大きく3分野に分けられる

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新築住宅の住宅性能評価は「設計住宅性能評価」と「建設住宅性能評価」に分かれていました。しかし、中古住宅の場合は「既存住宅性能評価書」のみとなっています。現況検査評価書や建設住宅性能評価(既存住宅)など、検索すると様々な表現が出てきますが、本記事では最もイメージしやすい「既存住宅性能評価書」と表現します。

既存住宅性能評価書は、新築の場合の建設住宅性能評価にあたるもので、設計段階の性能は評価しません。あくまで、現状がどうなっているのかを調査することが目的です。

そして現況検査調査書では必ず行う検査を「現況検査」として分類しています。残りの「特定現況検査」と「個別性能評価」は任意で選択するオプションという扱いになっています。中古住宅の住宅性能評価も新築の場合と同様に、戸建住宅と共同住宅では評価項目が異なります。

ただし、特定現況検査と個別性能評価は任意での検査対象ではあるものの、昭和57年(1982年)以前に建てられた住宅で住宅ローン減税の申請をするためには個別性能評価の一つである耐震等級1~3を取得する必要がある等、住宅性能評価書を取得する目的によっては事実上必須となっているものもあります。どの項目を検査するかは依頼している不動産仲介業者や設計事務所としっかりと相談して決定してください。

「現況検査」は戸建住宅でも17項目集合住宅では25項目にも及ぶ大規模な検査

現況検査で行われる検査項目は25種類と非常に多岐にわたります。その中には同じ検査項目名で、集合住宅の共用部のみ項目が分けられている項目もあります。また、その場合は同じ検査項目名であっても検査内容が変化しているため、全体を把握することが困難です。集合住宅の共用部などで重複している項目を除いた場合でも17項目とかなりの量があります。

少しでも全体像をつかみやすくするために表としてまとめてみました。検査内容は概要のみ記載しますが、実際は工法や使用材料により検査方法や検査の内容は異なります。

項目検査対象検査内容
(1)基礎のうち外部に面する部分全住宅基礎コンクリートの劣化によって起こる事象や、放置した場合に不具合を生じることが想定される事象について検査
(2)壁、柱、梁のうち屋外に面する部分全住宅壁、柱、梁等の構造躯体の劣化によって起こる事象や放置した場合に壁、柱、梁等の躯体の耐久性を損なわせることが想定される事象、ならびに、転落等の事故の原因となる事象について検査
(3)屋根全住宅放置した場合に雨漏り等の不具合の原因となる事象や屋根材の落下事故等の原因となる事象について検査
(4)壁、柱及び梁のうち屋内に面する部分戸建住宅、集合住宅(専用部)壁、柱、梁のうち、屋内に面する部分について、躯体等の劣化によって起こる事象や、放置した場合に不具合を生じることが想定される事象について検査
(5)壁、柱及び梁のうち屋内に面する部分集合住宅(共用部分)マンション等の共同住宅の共用部分の壁、柱、梁のうち、屋内に面する部分について同上
(6)床戸建住宅、集合住宅(専用部)床について、躯体等の劣化に起因している事象や、放置した場合に歩行安全面等の不具合を生じることが想定される事象について検査
(7)床集合住宅(共用部分)マンション等の共同住宅の共用部分の床について同上
(8)天井戸建住宅、集合住宅(専用部)天井について、躯体等の劣化によって起こる事象や、放置した場合に不具合を生じることが想定される事象について検査
(9)天井(共用部分)及び軒裏全住宅※天井は共用部のみマンション等の共同住宅の共用部分の天井について同上
(10)階段戸建住宅、集合住宅(専用部)階段について、階段の構造体、踏面、手すり又はこれを支持する部分を対象として、放置した場合に不具合や事故を生じることが想定される事象について検査
(11)階段集合住宅(共用部分)マンション等の共同住宅の共用部分の階段について同上
(12)バルコニー全住宅バルコニーについて、支持部、床、手すり又はこれを支持する部分を対象として、放置した場合に不具合や事故を生じることが想定される事象について検査
(13)屋外に面する開口部全住宅屋外に面する開口部について、放置した場合に雨水の浸入による建物構造部材の劣化等の不具合を生じさせる、もしくは、手すりの安全性を損なわせることが想定される事象について検査
(14)雨樋全住宅屋外・屋内に露出した雨樋(パイプスペース等に隠蔽されているものは除く)について、放置した場合に雨水の浸入による建物構造部材の劣化等の不具合を生じさせることが想定される事象について検査
(15)土台及び床組全住宅木造と鉄骨造における、土台及び床組について、放置した場合に不具合や事故を生じることが想定される事象について検査
(16)小屋組全住宅木造と鉄骨造における小屋組について、放置した場合に不具合や事故を生じることが想定される事象について検査
(17)給水設備戸建住宅、集合住宅(専用部)給水設備について、正常に保全され、飲料に適した水を供給していること、ならびに必要とする供給量が確保されていることを確認
(18)給水設備集合住宅(共用部分)マンション等の共同住宅の共用部分の給水設備について同上
(19)排水設備戸建住宅、集合住宅(専用部)排水設備について、劣化等によって起こるか、放置した場合に、排水設備としての機能に重大な不具合を生じる事象について検査
(20)排水設備集合住宅(共用部分)マンション等の共同住宅の共用部分の排水設備について同上
(21)給湯設備戸建住宅、集合住宅(専用部)給湯設備について、劣化等によって起こるか、放置した場合に、給湯設備としての機能に重大な不具合を生じる事象について検査
(22)給湯設備集合住宅(共用部分)マンション等の共同住宅の共有部分の給湯設備について同上
(23)機械換気設備戸建住宅、集合住宅(専用部)機械換気設備について、劣化等によって起こるか、放置した場合に、機械換気設備としての機能に重大な不具合を生じる事象について検査
(24)機械換気設備集合住宅(共用部分)マンション等の共同住宅の共用部分の機械換気設備について同上
(25)(1)〜(24)に挙げる部位等全住宅(1)から(24)までのすべての部位において、住宅の耐久性・安全性に影響のある、腐朽・蟻害、鉄筋の露出等の事象について検査
表1:現況検査項目一覧

集合住宅の共用部を省いたとして17項目と多岐にわたりますが、その全てが住宅の状況を見極めるためにはいずれも重要な情報です。

「特定現況検査」は腐朽等と蟻害の2項目について検査する

特定現況検査は現況検査では検査を行わなかった「腐朽等」と「蟻害」についての検査を行います。

「腐朽など」とは、「腐朽菌により木材の組織が崩壊する現象である腐朽」に加えて「菌糸類が木材上に生息する状態」を指します。

「蟻害」とは白アリが滑動していたり、その痕跡が見られる状態を指します。

上述した通り、特定現況検査は任意での検査となります。不要と考える方は無理に行う必要はありません。しかし、「腐朽等」と「蟻害」はいずれも建物の耐久性に大きな影響を与えます。検査を行う機会があるのであれば是非行ってほしいと個人的には思います。

「個別性能評価」は新築と同様の評価基準で28項目+既存住宅独自の2項目を評価する

個別性能評価は新築の場合の住宅性能評価10分野と34項目の内、9分野28について新築の場合と同様の基準で評価を行います。また、それに加えて、既存住宅独自の評価項目を2項目についても検査を行うことが可能です。

基本的には新築時の住宅性能評価と同様の内容なので、検査項目の詳細はそちらの記事をご確認ください。

ただし、新築時の評価には存在しなかった要素として、等級0という等級が存在します。これは現行の建築基準法における最低基準を満たしていないことを表しています。

本記事では評価を行う項目を一覧表にして確認した後、既存住宅独自の項目について解説していきます。

項目分野検査内容
1-1 耐震等級(構造躯体の倒壊等防止)地震などに対する強さ地震に対する構造躯体の倒壊、崩壊等のしにくさを表示(等級3〜0)
1-2 耐震等級(構造躯体の損傷防止)地震などに対する強さ地震に対する構造躯体の損傷のしにくさを表示(等級3〜0)
1-3 その他(地震に対する構造躯体の倒壊等防止及び損傷防止)地震などに対する強さ建築基準法で定める免震建築物であるかどうかを表示
1-4 耐風等級(構造躯体の倒壊等防止および損傷防止)地震などに対する強さ暴風に対する構造躯体の崩壊、倒壊等のしにくさおよび構造躯体の損傷の生じにくさを表示(等級2〜0
1-5 耐積雪等級(構造躯体の倒壊等防止および損傷防止):多雪区域のみ地震などに対する強さ屋根の積雪に対する構造躯体の崩壊、倒壊等のしにくさおよび構造躯体の損傷の生じにくさを表示(等級2〜0)
1-6 地盤又は杭の許容支持力等及びその設定方法地震などに対する強さ地盤又は杭に見込んでいる常時作用する荷重に対し抵抗し得る力の大きさ及び地盤に見込んでいる抵抗し得る力の設定の根拠となった方法を表示
1-7 基礎の構造方法及び形式等地震などに対する強さ直接基礎の構造及び形式又は杭基礎の杭種、杭径及び杭長を表示
2-1 感知警報装置設置等級(自住戸火災時)火災に対する安全性評価対象住戸で発生した火災の早期の知覚のしやすさを表示(等級4〜0)
2-2 感知警報装置設置等級(他住戸火災時):共同住宅のみ火災に対する安全性評価対象住戸の同一階及び直下の階にある他住戸等で発生した火災の早期の知覚のしやすさを表示(等級4〜1)
2-3 避難安全対策(他住戸火災時・共用廊下):共同住宅のみ火災に対する安全性評価対象住戸の同一階及び直下の階にある他住戸等における火災発生時の避難を容易とするために廊下に講じられた対策を表示
2-4 脱出対策(火災時)火災に対する安全性通常の歩行経路が使用できない場合の緊急的な脱出のための対策を表示
2-5 耐火等級(延焼のおそれのある部分<開口部>)火災に対する安全性対象部分の火災による火炎を遮る時間(耐火時間)の長さを表示(等級3〜1)
2-6 耐火等級(延焼のおそれのある部分<開口部以外>)火災に対する安全性対象部分の火災による火炎を遮る時間(耐火時間)の長さを表示(等級4〜1)
2-7 耐火等級(界壁及び界床):共同住宅のみ火災に対する安全性対象部分の火災による火炎を遮る時間(耐火時間)の長さを表示(等級4〜1)
3-1劣化対策等級(構造躯体等)劣化の軽減に関すること構造躯体に使用する材料の交換等大規模な改修工事を必要とするまでの期間を伸長するために必要な対策の程度を表示(等級3~0)
4-1 維持管理対策等級(専用配管)配管の清掃や取り替えのしやすさ、更新対策専用部分の給排水管、給湯管及びガス管の維持管理(清掃、点検及び補修)を容易とするため必要な対策の程度を表示(等級3〜1)
4-2 維持管理対策等級(共用配管):共同住宅のみ配管の清掃や取り替えのしやすさ、更新対策共用部分の給排水管、給湯管及びガス管の維持管理(清掃、点検及び補修)を容易とするため必要な対策の程度を表示(等級3〜1)
4-3 更新対策(共用排水管):共同住宅のみ配管の清掃や取り替えのしやすさ、更新対策共同住宅の共用排水管の更新工事を軽減するため必要な対策の程度を表示(等級3〜1)
4-4 更新対策(住戸専用部):共同住宅、長屋のみ配管の清掃や取り替えのしやすさ、更新対策間取り変更などの自由度を高めるために重要な、躯体天井高さを表示します
5-1 温熱環境(省エネルギー対策等級)温熱環境に関すること外壁、窓等を通しての熱の損失の防止を図るための断熱化等による対策の程度を表示(等級7~1)
5-2 エネルギー消費量温熱環境に関すること一次エネルギー消費量の削減のための対策の程度を表示(等級6,5,4,3,1)
6-2 換気対策(局所換気対策)空気環境に関すること換気上重要な便所、浴室及び台所の換気のための設備を表示
6-3 室内空気中の化学物質の濃度等空気環境に関すること評価対象住宅の空気中の化学物質の濃度及び測定方法を表示
6-4 石綿含有建材の有無等空気環境に関することこの事項は既存住宅のみを対象。住戸における飛散のおそれのある吹き付け石綿、吹き付けロックウールの有無を表示
6-5 室内空気中の石綿の紛じんの濃度等空気環境に関することこの事項は既存住宅のみを対象。居室ごとに空気中の石綿の紛じん濃度などを測定します
7-1 単純開口率光・視環境に関すること居室の外壁などに設けられた開口部の面積の床面積に対する割合を%以上で表示
7-2 方位別開口比光・視環境に関すること居室の外壁又は屋根に設けられた開口部の面積の各方位別ごとの比率を%以上で表示します
9-1 高齢者等配慮対策等級(専用部分)高齢者等への配慮に関すること住戸内における高齢者等への配慮のために必要な対策の程度を表示(等級5〜0)。既存住宅では、等級2と1の間に等級2−が設定。
9-2 高齢者等配慮対策等級(共用部分):共同住宅のみ高齢者等への配慮に関すること共同住宅等の主に建物出入口から住戸の玄関までの間における高齢者等への配慮のために必要な対策の程度を表示(等級5〜0)。既存住宅では、等級2と1の間に等級2−が設定。
10-1 開口部の侵入防止対策防犯に関すること住宅の開口部を外部からの接近のしやすさ(開口部の存する階、開口部の種類)に応じてグループ化し、その上で各グループに属する全ての開口部について、防犯建物部品を使用しているか否かを階ごとに表示
表2:個別性能評価一覧

既存住宅のみ行う住宅項目は、表中でも強調してある「6-4 石綿含有建材の有無等」と「6-5 室内空気中の石綿の紛じんの濃度等」の2項目です。

この2項目は石綿(アスベスト)に関する評価となっています。現行法では健康上の問題から、石綿を建材に用いることは出来ません。そのため新築住宅の場合はそもそも検査項目に含まれていないのです。

一方で、中古住宅の場合では石綿が含まれている可能性があるため、安全性を確認する意味合いも含めて検査項目となっています。

取得に必要な手順な4ステップ

目標までのステップイメージ

既存住宅性能評価を取得する場合は次の4段階のステップを経て取得することになります。

  • 住宅性能評価機関との事前相談
  • 既存住宅性能評価を申請する
  • 第三者機関が実際の建物を検査する
  • 既存住宅性能評価書を発行する

新築の場合と異なり、設計と建設の2段階に分かれていないためシンプルな手順となっています。

住宅性能評価機関との事前相談

この段階では、評価の対象となる住宅の現況や概要を評価機関に伝え、評価の目的を確認し、どの項目について評価のを行うのかを決定します。

住宅性能表示制度や評価基準の概要、必要書類、手続きの流れについて不明な点、不安な点があれば、この段階でしっかりと確認す必要があります。評価を受ける際に必要な資料や費用についても確認事前相談の段階で現況調査のスケジュールや準備物を整えることで、その後のステップがスムーズにいきます。

相談内容を基に必要な資料や書類の準備を進めていきますが、既存住宅の場合は予想外の問題が発生するのが常です。

必要な書類が見つからない。逆にないと思っていた書類が見つかった。このような場合は改めて評価機関と相談を行い、今後の対応を決めてください。

既存住宅性能評価を申請する

事前相談を行い、準備が整ったら、正式に住宅性能評価を申請します。この際、後述する書類を評価機関に提出します。

申請時に評価手数料を支払う必要があり、必要な料金は評価項目や住宅の規模に応じて異なります。なお、評価機関が提出書類を確認し、不足があれば追加提出が求められます。

住宅性能評価機関が実際の建物を検査する

申請が受理されると、性能評価機関が実際の建物を現地で検査を行います。

現地調査で問題があった不具合や基準不適合については、評価機関から改善提案がなされることがあります。

必要に応じて検査を一時的に中断して、補修工事を行った後に再検査を受けることもできます。

ただし、その際には 後述する再検査費用が必要となります。

既存住宅性能評価書を発行する

検査が完了すると既存住宅性能評価書が発行されます。住宅の現段階での性能を証明する重要な書類となるため、大切に保管しておきましょう。

特に住宅性能評価を行った住宅として売却を行う際には、提出を求められるため、売買目的で評価を受けた場合は必ず紛失しないようにしてください。

必要な書類は6種類

チェックリストイメージ

ここまでで、どのような既存住宅の住宅性能評価のイメージはつかめたはずです。次に、実際に申請するにはどのような書類が必要となるのか確認していきましょう。

申請には次の書類が必要となります。

  • 建設住宅性能評価申請書(既存住宅) 第一面から第四面
  • 建設住宅性能評価申請書(既存住宅)別紙
  • 委任状
  • 特別評価方法認定書の写し及び当該認定特別評価方法を用いて評価されるべき事項を記載した書類(該当する場合に限る)
  • 添付図書(付近見取り図、申告書、過去の評価結果を確認できる図書(過去に評価を行った場合のみ)
  • 関係者の同意書(任意)

申請書や委任状は評価を行う第三者機関のホームページからダウンロードすることは可能ですが、物件購入、売却を仲介する不動産業者やリフォーム工事を依頼している工務店など、建築や不動産の専門家に依頼することも多いため、相談してみることが確実となります。

また、これらには含まれていませんが、設計図書の有無により、後述する見積金額が変化するため、中古住宅購入後に住宅性能評価を行おうと考えている方は、売主に設計図書の有無を確認するようにしましょう。

必要な費用

必要コストイメージ

新築の住宅性能評価と同様に、日本ERIの2024/04/01時点での料金表を使用して解説します。

戸建住宅と集合住宅で料金が異なりますが、本記事では戸建住宅の場合を想定して解説します。

料金についてより詳細に確認したい方はリンクから料金表をご参照ください。

既存住宅の住宅性能評価を行うために必要な金額は、必ず行わなければならない現況検査の金額と、任意により検査項目として追加する、特定現況検査と、個別性能評価の金額を合計して求められます。

それぞれ個別に解説していきます。

現況検査に必要な費用は最低11万円から

まずは既存住宅の住宅性能評価を行う上で必ず必要となる、現況検査に必要となる費用についてです。

日本ERIの料金表を引用して解説します。

延べ面積設計図書有設計図書無再検査
120㎡以下100,000円(税込 110,000円)140,000円(税込 154,000円)50,000円(税込 55,000円)
120㎡超200㎡以下140,000円(税込 154,000円)180,000円(税込 198,000円)50,000円(税込 55,000円)
200㎡超160,000円(税込 176,000円)
+50 ㎡超毎に 20,000円
(税込 22,000円)
200,000円(税込 220,000円)
+50 ㎡超毎に 20,000円
(税込 22,000円)
50,000円(税込 55,000円)
表3:既存住宅性能評価 現況検査料金表

表から分かるように、最低料金は建物の規模で決定します。規模が大きな建物ほど、必要な金額は多いくなります。

また、設計図書の有無により、基本料金は変動します。

再検査とは検査結果を受けて、建物に不具合などが見つかった場合に一旦検査を中断した後に、適宜補修工事を行い、基本性能を向上させた後に行う検査のことです。

特定現況検査は最低6万6千円から

任意での検査となる特定検査はシンプルです。

純粋に検査する建物の規模により料金が決まります。

設計図書の有無により料金が変動することもありません。

延べ面積
120㎡以下60,000(税込 66,000)
120㎡超200㎡以下80,000(税込 88,000)
200㎡超100,000(税込 110,000)
+50 ㎡超毎に 30,000(税込 33,000)
表4:既存住宅性能評価 特定現況検査料金表

個別性能評価は検査する項目の種類や数により、大幅に料金が変わる

個別性能評価は項目数が膨大な上に、金額がバラバラで、料金表外で別途見積もりが必要となる場合もあるため、料金の特に大きい「構造の安定に関することに係る料金」と、「特定測定物質濃度測定、石綿含有建材等に係わる料金」に関して解説します。

「構造の安定に関すること」の評価を行うために必要な金額は、「建設住宅性能評価の図書又は等級が確認できると同等の信頼性を有する図書による評価」があるという前提でも1項目3万円必要となります。

そうでない場合は料金表外で別途見積もりや、「耐震等級(構造躯体の倒壊等防止)に係わる料金」や「その他(地震に対する構造躯体の倒壊等防止及び損傷防止)【免震建築物】に係わる料金表」を参考にして料金を決定することになります。

その場合は最低でも10万円前後の追加費用は覚悟する必要があります。

特定測定物質に係わる料金は、「測定ケ所の数」により料金が変動します。

測定ケ所数ホルムアルデヒドホルムアルデヒド+VOC(揮発性有機化合物)
130,000(税込 33,000)/箇所50,000(税込 55,000)/箇所
225,000(税込 27,500)/箇所46,000(税込 50,600)/箇所
3~523,000(税込 25,300)/箇所42,000(税込 46,200)/箇所
6~1021,000(税込 23,100)/箇所38,000(税込 41,800)/箇所
11~3019,000(税込 20,900)/箇所36,000(税込 39,600)/箇所
31~18,000(税込 19,800)/箇所36,000(税込 39,600)/箇所
表6:特定測定物質の濃度測定に係る測定箇所あたりの料金

ホルムアルデヒドとVOCとは?
建材や日用品から放出される化学物質で、室内空気汚染の原因となります。

ホルムアルデヒド:無色で刺激を持つ化学物質で、塗料、合板などに使用されることが多い。 高濃度では目や鼻の粘膜を刺激し、頭痛や吐き気、長期的にはシックハウス症候群の主な原因物質となります。

VOC:揮発性有機化合物の総称で、塗料や接着剤、インク、ガソリンなど様々な物質に含まれます。建材や塗料から揮発し、空気中の濃度が増加すると健康に悪影響を及ぼす可能性があります。

最後に石綿含有建材等に係わる料金ですが、次の表のとおりです。

検査内容
石綿含有建材の有無確認110,000(税込 121,000)
石綿含有建材のサンプル採取、分析1建材3検体 440,000(税込 484,000)
室内空気中の石綿の粉じんの濃度測定・分析1箇所2試料 380,000(税込 418,000)
表7:石綿含有建材等に係わる料金表

非常に高額となるため実施する方は少数ですが、健康に関わる項目の為、仕様が疑われるを改装する際には事前調査も兼ねて調査することをおすすめします。

さらに地域により出張費が別途必要となる場合も

実際に必要となる金額は、設計住宅性能評価と建設住宅性能評価、それぞれの基本料金と選択料金を合計した金額に、下記の出張費を加算することで求められます。

地域区分日当交通費宿泊費備考
地域:A---拠点等から概ね 15km までに含まれる区域
地域:B-2,000円(税込2,200円)-拠点等から概ね 15~30km に含まれる区域
地域:C-3,000円(税込3,300円)-拠点等から概ね 30~50km に含まれる区域
地域:D5,000円(税込5,500円)4,000円(税込4,400円) -拠点等から概ね 50~100km に含まれる区域
地域:E10,000円(税込11,000円)実費10,000円(税込11,000円)
※1名につき1夜あたり
拠点等から概ね 100km 以遠の区域及び島嶼部
表6:建設住宅性能評価に係る出張費(日当、交通費、宿泊費の合計を出張費とする)(拠点等とは本社、支店又は担当する業務拠点を指す)

最後に

結論

前回の記事に引き続き、住宅性能評価について紹介してきました。既存住宅の住宅性能評価をする方はまだまだ少数ですが、今後住宅ストックを活用していくのにあたり、将来的には需要が増していくと思われます。

個別性能評価などは非常に高額ですが、建物にとっては重要な情報が詰まっています。純粋に売買価格を挙げる目的として考えるとコストパフォーマンスは劣悪ですが、住宅を長く住み継いでいくためには必要なことです。

新築時の住宅性能評価をと同様に、既存住宅の住宅性能評価を当たり前に行う時代になることを祈っています。

  • この記事を書いた人

櫛花樹已

愛知県在住で普段は建築設計事務所で働いています。 何かしたいと常に思っているくせに何かするのは面倒くさいという捻くれ者。そんな状況を脱却するために「とりあえずやってみます」の精神で色々やっていきます。

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