住宅の購入は現代を生きる多くの日本人にとって一生に1度のこととなるでしょう。現在計画を進めている方々は理想の暮らしを夢見て期待を膨らませているのではないでしょうか。しかし、いざ住み始めてみるとこんな予定ではなかったということが往々にして起こるのが住宅です。今回はそんな住宅の中でも後悔の声を聴くことが多い吹き抜けについて解説していきます。何の事前知識もない状態でも理解できるよう丁寧に説明していきたいと思います。
とは言ったもののの吹き抜けは語ることが非常に多くなるので構造編、室内環境編、意匠編に分けていこうと思います。現在住宅の計画を進めている方々の参考になれば幸いです。
吹き抜けがあると建物は弱くなるの?
結論を最初に申し上げると「吹き抜けが弱点となり易いのは事実」ただし「工夫次第で十分にカバー可能」です。
はい、結局は使い方です。吹き抜け周辺が構造的な弱点となり易いのは確かな事実ですが、それがそのまま弱い建物であるという結論にはなりません。吹き抜けを設ける際の注意事項さえ守れば耐震等級3も十分に取得可能です。
では吹き抜けを設ける際に注意すべき点と、弱点を補う方法は具体的にどんなものがあるのか確認していきます。と言いたいところですが、まずはなぜ吹き抜けが構造的な弱点となるのかを最初に説明させてください。
吹き抜けは構造的に見れば壁がなくなっているのと同じ
吹き抜けがなぜ弱点となるのかを理解するためにはまず耐力壁の概念を理解する必要があります。現代の住宅はその多くが木造で建てられています。そして現代の木造住宅は耐力壁という、横方向への力に抵抗するための要素が耐震性と語る上で重要となっています。古来から続く伝統工法などの例外はありますが、壁の量こそが耐震性に直結しています。
耐力壁とは
では耐力壁がどのように水平力へ抵抗するのかを考えていきましょう。
この図は何の補強もされていない柱と梁の組み合わせです。接合部は金物などで補強されてはいますが地震などの大きな水平力の前では大した役には立ちません。イメージとしては割り箸をゴムで縛っただけの状態です。横からの力をかければ容易に変形することが想像できるのではないでしょうか。
次にこちらの図はが耐力壁になります。筋交いという斜材を用いて補強した図になります。先ほどまでの状態と比べて、横からの力へ抵抗できるイメージが湧くのではないでしょうか。
床も耐力壁と同様
ここまでの説明で耐力壁の役割は理解していただけたかと思います。そして床面も耐力壁と設置しているの向きこそ異なっているものの、変形に抵抗するという点は同様です。
こちらの図は床面が変形に対して何の抵抗もしなかった場合の図です。底の抜けた段ボール処分するときを思い出してみてください。使用後の段ボールは、まず蓋部分と底部分を広げてから折りたたむのではないでしょうか。それと同様に外から力が加わった際にどれだけ壁面が元の形状を維持していても外壁の隅が元の形状を維持できず建物は変形し損傷します。
ここまで説明すれば吹き抜けがなぜ弱点となるのかお分かりかと思います。ご想像の通り吹き抜け部分は床による水平力への抵抗ができなくなってしまうからです。余談になりますが耐力壁のことを構造計算上では鉛直構面、各階床や屋根などを水平構面と呼びます。
それではお待たせ致しました。ここまで理解できていれば吹き抜けの注意点についても十分に理解が出来るでしょう。具体的な注意点の確認へ進みましょう。
構造的視点から見た弱点となる吹き抜け
早速悪い吹き抜けの例を2つ紹介します。まず1つ目は「吹き抜けが外壁面3面に接している」2つ目は「吹き抜けの並行する2面が外壁面と接している」。文字にすると書いた自分でも何を伝えたいのか分かりません。画像を使ってイメージをしていきましょう。
吹き抜けが外壁に3面以上接している
シンプルな単線で2層の箱を用意しました。塗りつぶされてる面が2階の床だと思ってください。塗りつぶされていない吹き抜け部分が外壁面に3方向接していることがわかると思います。この状態では吹き抜け部分が矢印の方向への力へ抵抗できずに変形してしまいます。
外壁面が吹き抜けを挟んで並行している
2つ目のパターンです。こちらの場合も吹き抜け部分は外力に抵抗することが出来ません。また吹き抜けによって床が完全に分断されてしまっているため、地震発生時には二つの床がそれぞれ独立して揺れることで、変形がより大きくなる恐れもあります。
最後に
いかがでしょうか耐力壁と水平構面の関係さえ理解できていれば理解に苦しむことはないのではないでしょうか。吹き抜けを設ける際には上記のような形状にならないように工夫することで十分な耐震性を確保することが可能です。
とは言ったものの、どうしてもこの位置に吹き抜けが欲しい、採光などの都合上設けざるを得ない。そんな状況もあると思います。そういった際の対処法を次回説明していきます。