吹き抜け 建築基礎知識 意匠分析

【住宅初心者向け】木造住宅の吹き抜けってどうなの?(意匠・生活編)

2024年8月28日

ついに吹き抜けについて最後の記事です。前回までは吹き抜けについての構造、室内環境について説明をしてきました。今回はついに最終回として、その意匠上の良さや日常生活においての吹き抜けについてのお話をしていこうと思います。

ここまでの記事を読んでいただいた方々は吹き抜けを設けることによる注意点を十分にご理解いただけているでしょう。その上で吹き抜けを設けようと考えているということは、吹き抜けに対する強い憧れがあるのだと思います。

『デメリットがあると分かっていても吹き抜けがある家に住みたい』そんな方々の背中を押すことが出来る記事となっているので是非読んでいって下さい。

吹き抜けのメリット

メリット

当然ですが吹き抜けには数多くのメリットがあります。生活する中で吹き抜けがあってよかった。そう思う機会は頻繁にあります。

今回はそのメリットを三つの側面から分析し、吹き抜けがある生活の想像を膨らませていきましょう。

解放感

吹き抜けを見下ろす

なんといってもまずはコレでしょう。

吹き抜け部分の天井高さは通常の天井と比較すると二倍以上の高さがあり、その天井高から生まれる解放感は平面上の広さとは別種のものです。

天井高さと解放感に関する研究は行われていますが、天井高さによる空間全体への影響は大きく、関戸洋子氏の「小空間における天井高変化による心理的影響」では『一般的な天井高さである2400mmの天井高さを基準として、天井高さを下げていった場合、実際の容積以上に空間が狭くなったと感じる』という研究結果も出ています。

全ての設定において、相対容積は実容積より5~25%ほど小さいものとして評価される

小空間における天井高変化による心理的影響 https://www.aij.or.jp/paper/detail.html?productId=172775

関戸洋子氏の「小空間における天井高変化による心理的影響」では天井高の低さを、落ち着きやすさや、狭環境を共有することによる親近感の獲得など、肯定的な要素として研究、実験しています。天井の低さを否定する内容ではないため、誤解されないようお願いいたします。

上記の研究から分かる通り、人間が認識する空間の広さには天井高さは大きく関連していることが分かります。そしてこの研究から、逆に狭い空間でも部分的に吹き抜けを設けることで、実面積以上の解放感を得ることが可能であるということが分かります。

また、二階の空間との繋がりは立体的な空間を構成し、その家の象徴であり中心となる場所となります。後で詳しく書いていきますが、家族が自然と顔を合わせる機会が増え、コミュニケーションが生まれることでしょう。

さらに、上下の繋がりという要素は単純な平面上の広がりだけでは実現できないダイナミックな空間を演出してくれます。吊り下げ型の照明を採用したり、上下に長い壁を活かして壁掛けのインテリアを設置したりすればその空間をより一層印象的なものとしてくれるでしょう。

明るい

高所窓からの採光

天井が高いということは、窓を高所に設置できるということでもあります。高所の窓から入る光は部屋全体に拡散し、日中であれば室内の照明が不要なほどの明るさを確保することが出来ます。

また、この特徴は隣地の家が近くにあり、一階からは十分な採光を確保することが困難な場合により輝きます。吹き抜けが無ければカーテンを開けても薄暗く、窓を開けても湿った空気しか入ってこないような環境であったとしても、あえて一階の窓を減らし十分なプライバシーを確保した上で、高所の窓から太陽の光を取り入れることで、明るく開放的でありながら、安心できる空間を創り出す事が出来ます。 

住宅が密集しているような地域に建てることを検討している方々にとっては特に重要な意味を持っているでしょう。

家族の距離が近い

子どもたちが吹き抜けから見下ろす

解放感の点でもすこし触れましたが、吹き抜けを採用することで家族間でのコミュニケーションは間違いなく増えます。これは空間を隔てるものが減ることによる現象なので当たり前のことかもしれませんが、子どもの様子が気になる方や些細な変化にも気が付いてあげたい方にとっては重要なことでしょう。

家族同士であっても過度な干渉は良くありませんが、毎日直接話すことは無くても姿が目に入り、様子を確認することができるというのは共に暮らす家族にとっては大切なことでしょう。一つ一つは僅かなコミュニケーションであっても、それが毎日積み重なっていけば大きな変化になります。そういったものの積み重なりによって、長い目で見ていけば間違いなく家族仲に良い影響を与えてくるでしょう

吹き抜けのデメリット

デメリット

吹き抜けのデメリットという見出しではありますが、正直意匠上デメリット言えることはほとんどありません。

吹き抜けの直接的なデメリットはその大半が構造上、温熱環境上のものであり、その点をクリアしているのであれば吹き抜けは皆さんに大きな満足感を与えてくれることでしょう。

なので、意匠上のデメリットというよりも日常生活を送る上での気になるかもしれない点を挙げさせていただきます。同時に対策やアドバイスも書いていくのでメリットだけで満足せず、最後まで読んでいってください。

2階の部屋が減る

間取りを検討する夫婦

吹き抜けを採用するということは二階の部屋として使用できる空間を、何もない文字通りの「空間」とすることを意味しています。吹き抜けとなる空間を他の部屋として使用すれば一部屋増やす程度のことは十分に可能でしょう。その選択肢は当然悪くありません。吹き抜けによって得られるモノと、別室として使用することで得られるモノは全く別のものなので、単純にどちらが良いのかと比較することは困難でしょう。

そのため、後悔のない選択をするには将来の生活に対してしっかりと具体的なイメージを持つことが重要となってきます。家族が増えると思って部屋を用意していたが無駄になってしまった、子どもたちが独立して部屋が余ってしまっているという声はよく聞きます。

対策としては将来像を明確にイメージして、細かく人数分の部屋を用意するのも大切ですが、逆に大きめの室を用意し、家族の変化に応じてその部屋の区切り方を変えて対応するという手もあります。もちろん一つ一つ用意された部屋と比較すると音漏れなどはしやすいですが、不測の事態や急な変化にも対応しやすく、家族構成が変化しても柔軟に対応できるというメリットもあります。

音、匂いの漏れ

音漏れ被害

吹き抜けには音やにおいを遮るものは何もありません。それは吹き抜けを設けた部屋で発生したモノが家全体に拡散していくことを示しています。では吹き抜けのない家との違いは実際どの程度のものなのでしょうか。

この点に関しては個々人の感覚による部分が大きいため、一人の意見で一括りに回答を出しにくい部分であるため、既存研究から引用させていただきます。詳細が気になる方はぜひ引用元の研究内容まで確認していただきたいです。

環境系評価項目では吹き抜け空間があることで、よりリビングに自然の光が入る、 リビングでの話し声が2階でよく聞こえる、夏に2階で熱気がこもる、料理のにおいが家全体に伝わる、 リビングの風通しがよい、冬に階段を伝って冷気が下りてくる、という結果であった。

空間系評価項目では吹き抜け空間があることで、より遊び心が満喫できる、 2階にいてもリビングの気配を感じられる、リビングと2階の部屋の繋がりが適切である、リビングで開放感が感じられる、リビングにメンテナンスのしにくい照明器具がある、家族同士のプライバシーが守られていない、という結果であった。

吹き抜けタイプの差異による住み心地評価への影響 https://www.jstage.jst.go.jp/article/japaninteriorsociety/17/0/17_75/_pdf

この研究は2005年発表の内容であり、20年前の住宅性能であることに注意する必要があります。特に熱気や冷気などの温熱環境面は現在では明確な対策が可能であるため、無視してもよいでしょう。その温熱環境面を除くと特に大きな差があったのは音の問題です。リビングでの話し声やテレビの音が聞こえるというものでした。やはり吹き抜けがあることによる音の広がりを抑えることは難しいということなのでしょう。出来る対策といえば吹き抜けに面している壁に断熱、防音効果のあるグラスウールを仕込み、石膏ボードを2重張りとすることくらいでしょうか。

反対に匂いの問題はそこまで大きな差は無かったようです。もちろん吹き抜けがある場合の方が匂いの広がりはあるものの、特筆するほど大きな差ではないと考えてもよいのではないでしょうか。音と異なり匂いは建物の換気性能によって対策が可能であることがこの差に繋がっているのではないでしょうか。

ただやはりこの点については個人の感覚により許容できる範囲が大きく異なっています。そのため、一度実例を見に行って実際にどの程度音が広がるのか体感してみることが一番でしょう。

掃除が大変

高所掃除道具

一般的な吹き抜けの高さは床面から5.5m~6mほどの高さがあります。当然手が届く高さではありませんし、脚立などを用意しても難しいでしょう。窓やシーリングファン、壁掛け証明、インテリアには生活していく以上埃が溜まり、汚れていきます。

完全に放置するわけにはいかないので定期的に掃除する必要がありますが、その掃除の手間は普通の部屋の比でありません。中には自力での掃除を断念して、掃除業者に頼むという方もいらっしゃいます。

この問題に対する回答としては吹き抜け部分を掃除できるように廊下やバルコニーを計画しておくというとこが挙げられます。窓やシーリングファン、その他掃除が必要な場所にどんな道具を使って、どうやって掃除をするのかを事前に検討しておくことが重要となります。

最後に

結論

私個人の考えとしては、吹き抜けは憧れで終わらせてしまうのは勿体ない、採用するだけの価値があるものであると思っています。しかし同時に、憧れだけが先行して後先考えずに採用してしまうときっと大きな後悔をすることになるでしょう。

吹き抜けは住宅を構成する要素の中でも非常に強い力を持っています。採用することでその家の方向性を決定づけると言っても過言ではありません。採用する際には慎重にメリットとデメリットを比較し、後悔のない選択が出来るように様々な情報に目を通してください。

この記事を読んで下さった方々にとって、一生に一度の買い物となるであろう住宅。その選択で後悔しないようにこのブログでは他にも住宅初心者の方が疑問に思う点や住宅用語の解説をしていきます。何に気を付けたらいいかわからない、説明されても知らない用語が多くてわからない。そんな方の助けになれるように尽力していきます。今後も定期的に覗いてみると、新しい発見があるかもしれません。

ぜひ他の記事も目を通して勉強していってください。

  • この記事を書いた人

櫛花樹已

愛知県在住で普段は建築設計事務所で働いています。 何かしたいと常に思っているくせに何かするのは面倒くさいという捻くれ者。そんな状況を脱却するために「とりあえずやってみます」の精神で色々やっていきます。

-吹き抜け, 建築基礎知識, 意匠分析
-,